Rock

B’z「FRIENDS Ⅲ」

 

 

B’z
FRIENDS Ⅲ
2021

 

普遍性を宿した一枚

「この世の万物は常に変化していて、ほんのしばらくも留まることがない」という意味を持つ諸行無常という概念。仏教の経典「涅槃経」において登場したこの概念は、いずれ日本の「平家物語」にも使用されるようになりました。それを裏付けるように、現代社会では全ての物事が目まぐるしく変わっていきます。しかも、世の中の全てがファストで、全てが右から左へ流れてゆく一過性にある一方で、本作はそういった時代の流れに左右されない普遍性を宿しています。故に、本作を手に入れた時よりも、時間が経った今の方が遥かに効くアルバムでもあるのです。

「歌詞カードを読む」というアナログな行為をしたのは、一体どれくらいぶりだろう、と自問自答させ、そういう意味においてはFRIENDS(1992)、FRIENDS Ⅱ(1996)よりも遥かに「音楽」に集中する態度を秘めたアルバムです。そこには派手なMVも、SNSで使いまわされる必要性もありません。ただ普遍的な音楽の仕組みの一つとしてそこに存在すること──そういった顔を持つアルバムでした。

本好きの方にしか伝わらないかもしれませんが、カート・ヴォネガット「タイタンの妖女」を読んだ時のような、町田康「告白」を読んだ時のような、もう圧倒的な普遍性、つまりこれは一生自分の心に積み重なっていくであろう、極上のポップ・アルバムでした。

 

丁寧な仕事をするB’zという職人

完全なインストゥルメンタルM1「harunohi」のイントロダクション。冬の朝のような緊張した空気、しかし春のやわらかな陽だまりに晒されたような甘いトーン。ギターの弦を一つ弾いただけで生み出された、たった一点の松本のトーン。これのみでその空気を掌握してしまう、あまりに美しい音から本作は幕を開けます。

シャッフルビートが中心となって構成された次曲M2「シーズンエンド」へと間を開けずに継がれ、ホーンセクションに絡みつく完膚なきバンド・アンサンブルをじっくりと聴かせます。松本のソロはブルーズに接近し、楽曲の世界観を構築しています。稲葉の詞は「季節はもう終わりかけの模様」「季節は色を変え始めたよ」「季節は容赦なく巡るよ」に付随する「あなたのいた夏に告げましょう」「あなたのいない冬を生きよう」「あなたと違う春を夢見よう」という流転を辿り、「The day will come」に帰結します。

次曲M3「ミダレチル」ではB’zとしては意外な「あんた」という言葉が使われているのが印象的です。サウンドはアッパーな雰囲気であるのに、「清潔な人生をいくら目指しても悔恨のため息にまみれて朦朧」から詞が始まるのが、作詞家・稲葉浩志の真髄のようにすら感じられます。続く「哺乳類の自分勝手な振る舞いはもう尊い遺伝子の所業」というフレーズもまた、アンバランスなB’zらしい様式的展開です。亀田誠治、河村智康、斎藤ノヴらリズムセクションが奏でるグルーヴも極めて上質で、どこかの楽器だけが主張することなく、本当に美しいアンサンブルを構築しています。

シリーズお馴染みとなったインスト「FRIENDS」を経て、アコースティックの深みに微睡むM5「Butterfly」へと物語は繋がれていきます。ドラムスをほとんど排した静謐なバラードはB’zとしては珍しいですが、何より「コーヒー」でも「紅茶」でもない「お茶」というフレーズが、FRIENDSシリーズを彩ってきた男女の円熟を想起させます。また女性から見た男性のことを「スポーツカーよりもスリル溢れる乗り物」と表現するその様は、過去のエロティシズムを感じさせる幾つもの楽曲よりも遥かに身体を震わせます。直截的な言葉を使わずに、情景をぴったりと想像させる稲葉の詩人の顔が垣間見える楽曲です。松本が前年2020年にリリースしたBluesman・M8「Waltz in Blue」とも似た要素を持っているように感じられます。

また、一方では、明確に声が変遷してきた稲葉が、2000年前後に本作を歌っても成立しえない一種の時代性をも感じました。枯れていくことへの恐れではなく、自然に受容することの覚悟を本作からは得ました。ハードロックバンドのシンガーとしての高音の伸びの奥に、圧倒的な深みを宿しており、若さゆえのエネルギーで奏でられた楽曲であるというよりも、松本と稲葉がじっくりとじんわりと、しかし肩ひじを張らずに、時間をかけながら作っていったことが、この作品からは真摯に伝わるのです。

続くM6「こんな時だけあなたが恋しい」では、その狡さゆえの虚無を、情景描写と確かな心理描写双方から描いています。裏では松本のカッティングが楽曲の中核を形作り、洗練された”大人の”バンドとして音を鳴らしています。HRとしてのヘヴィネスを排してもグルーヴィーであることは十二分に可能であることを証明したアルバムでもあります。

そしてラストを締めくくるM7「GROW&GLOW」。FRIENDSシリーズを全てひっくるめて、最も哀しく、しかし最も美しい楽曲でしょう。「ディナー」ではなく「晩ごはん」というフレーズ然り、「ドラマティックな響めきじゃなくても」「呑気だった時代」「あの映画もう一度観ましょう」というフレーズ然り、FRIENDSに登場する二人の男女が辿ってきた道を振り返り「色褪せ散ってはまた咲いて 今も枝を伸ばす」に着地する凄みを感じました。「RUN」や「Brotherhood」を恋愛の邂逅として描くと、こういった楽曲になるような気がしています。松本が丁寧に紡ぐトーンがフェイドアウトしていき、ストリングスの余韻が後を引く本当のラストも、大変に美しいと思います。

私にとっては、はじめてFRIENDSをリアルタイムで経験します。「ⅰ」の時はまだ生まれておらず、「ⅱ」の時は一歳だった私にとって、およそ25年ぶりにリリースされた本作は、本当に大切なものとなりました。これは、とてつもなく幸運なことです。また、歌詞をじっくり見ていくと、自然をモチーフにした対象が多く、これは「慈悲」、そして世界そのものに対する大きな愛をも感じさせるものでした。FRIENDSに限ったことではありませんが、この視点と価値観は、私にとって大切にしたい一つのものです。

長くなりすぎましたが、是非ともゆっくり聴いてもらいたいアルバムです。

 

(FRIENDS ⅠⅡ、HWXについてはタイミングをみて配信するつもりです)

B’z「IN THE LIFE」

B’z「SURVIVE」

B’z 「ELEVEN」


OMOTE TO URA E-SHOP
CONTACT

ワダアサト