Rock

B’z 「ELEVEN」

 

B’z
ELEVEN
2000

 

USミクスチャーと理知的なヘヴィネス

一枚岩で、剥き身のサウンドを生音で聴かせる強固なアルバムBrotherhoodの翌年にリリースされたのが、本作「ELEVEN」です。時に「B’zは変わらない」という言説を見かけますが、変わらないのは二人の音楽に対する姿勢のみであって、実際は音楽的に様々な変遷・チャレンジを果敢に追求しています。そして、その中で最も異質なのが本作ELEVENであり、そのことによって意外にも、B’zのアルバムの中においては、The 7th Bluesに似て賛否両論、好き嫌いが分かれるアルバムであるとも考えられます。

まず聞こえてくるのは90年代以降のUSミクスチャーのムードです。前作Brothehoodにはあまり見られなかった傾向の一つで、インスパイヤされたであろう”年代”がそっくり後ろ(70年代から90年代)に移行したとみえます。勿論、ここでも生音はその楽曲群の核を成すものですが、そこにはより現代的なサウンド・プロダクション(当時において)が垣間見えます。また一方で、オルタナティブが90年代を境に変化していった背景とは少し異なり、聞こえてくるのは理知的なヘヴィネスを纏ったサウンドでした。前作Brotherhoodに追随する形ではありますが、攻撃的かつメタリック、それでいて高音圧で楽曲を構成していく松本の「リフ」。松本の美しいメロディセンスの「ポップネス」と前述の意味における「ヘヴィネス」が高度に融合したアルバムです。

 

Raging Riverという到達点

語感が気持ちの良いN2「Seventh Heaven」を筆頭に、ラップメタル的展開を魅せるN6「煌めく人」など、意外にもバラエティに富むのが本作ですが、所謂”稲葉節”なるものはここでも顕在で、特にN11「コブシヲニギレ」で歌われる詞世界は、あまりに人間の本質的な「何か」を凝縮させているようにも思えます。

特筆すべき楽曲はN9に据えられた楽曲「Raging River」です。全体で7分を超えるB’zにしては珍しく長尺な楽曲ですが、この地点までのB’zのキャリアと、未来の姿、あらゆる時間軸をひっくるめ、強烈な強度を持つ楽曲です。HR(特にUK)、プログレ、クラシック、ありとあらゆるジャンルを見事なまでにB’zというジャンルに吸収/昇華し、生死の狭間で混沌を演出してゆくこのドキュメントは、多くのリスナーにとっての「生」を支える楽曲となったことに疑いはありません。また、松本の構築する「静」と「動」の対比が、実に日本的でもあり「Raging River」という言葉そのものとも異常なほど嚙み合っているようにも聞こえます。このことがRainbowやDioなどの様式的70年代ブリティッシュHRとの明瞭な差となっていると感じます。

無論いうまでもなく、稲葉の描く詞世界も、極めて現実的かつ内省的で、マグマの系譜をスケールアップさせB’zとして放出したかのようです。松本の描くこの世界に太刀打ちできるシンガーは、やはりどう考えても稲葉しかいないと思われ、耳を通して心の芯に入り込んでくる深度を持っています。それらのことを以てして、Raging Riverは「赤い河」「ROOTS」「光芒」「Rain & Dream」的な、B’zというロックバンドの一つの境地、到達点であるように思えるのです。

リフを中心にゴリゴリ演奏していくN10「TOKYO DEVIL」もさることながら、隠れ切っているN12「Thinking of you」も取り立てて書きたい楽曲の一つです。エフェクトを効かせたアルペジオによってスタートする楽曲ですが、恐ろしいのは松本のギターワークに合わせ、稲葉が歌詞と歌唱を展開させている点です。こんなもん、もうB’zでしかない、という末恐ろしい感覚を得ます。

リフに合わせ爆音で聴くも良し、稲葉の詞世界に没頭するのも良し、演奏の恍惚に心奪われるのも良し、何度噛んでも味がする上に、違った香りまで放つアルバムが本作「ELEVEN」です。是非。

 

B’z「IN THE LIFE」


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