Bonsai & Plants

日本人が江戸時代に熱狂した「古典園芸植物」の謎を追う

 

日本人と植物の関わり

古典園芸植物とは

世界一の園芸大国の背景

園芸から芸術へ

 

 

日本人と植物の関わり


文明の成立に欠かせなかったもの──それは言うまでもなく「植物」です。植物が果たした役割は想像以上に大きく、植物資源の質がそのまま「文明の質」であったと言っても過言ではありません。

およそ3万年前(石器時代)には、野生の稲の種を蒔き、それを収穫するという作業が既に行われていたとされています。我々が現代の文明を享受する、その遥か昔の時代に、木の実、獣、貝、魚を採って食べるという生活から「食糧を生産する時代」へと変化していきました。

こと日本においては、約1万2000年前~2500年前(縄文時代)に中国から「稲作」が伝わり、弥生時代中頃には既に東北まで稲作が広まっていたという研究結果もあり、日本人に限らず「植物」はホモ・サピエンスそのものの文明を支えてきました。

しかし、この時点での植物の役割は「食べる」ための対象物であり、「観賞」するためのものではありませんでした。

では、これら「食べられるための植物」が「観られるための植物」に変化していったのは一体いつなのでしょうか?それは「江戸時代」でした。

 

 

古典園芸植物とは


徳川家康が征夷大将軍に任命されて、現在の東京(江戸)に幕府を樹立したのが1603年です。一般にはこれ以降の260年間あまりを「江戸時代」と呼びます。そして、この時代に急進的に広まっていったのが、食べるための植物ではなく、見るための植物です。

それを一般に「古典園芸植物」と呼称し、現在に至るまで変容しながら姿を残してきたものです。この「古典園芸植物」の代表的な植物は、花を鑑賞するものとして

・福寿草(フクジュソウ)
・雪割草(ユキワリソウ)
・花菖蒲(ハナショウブ)
・朝顔(アサガオ)
・芍薬(シャクヤク)
・石斛(セッコク)

などが挙げられます。

福寿草

花菖蒲

山芍薬

その他、葉や茎、樹木そのものを鑑賞するものとして

・万年青(オモト)
・岩檜葉(イワヒバ)
・躑躅(ツツジ)
・桜
・梅
・楓
・椿

などが挙げられます。

万年青 / オモト(引用:宝生園

岩檜葉 / イワヒバ(引用:彩のいわひば展

また、これらの古典園芸植物は、数々の当時の浮世絵にも描かれており、既に江戸時代に「植物」は「食べるもの」に加えて「観るもの」として利用されていたことが分かります。

歌川国貞 四季花比べの内 秋(引用:江戸mono style

歌川国房 植木売りと役者 たばこと塩の博物館蔵
(引用:Art Agenda

 

世界一の園芸大国の背景


1860年に来日したイギリスの植物学者ロバート・フォーチュンは、当時の江戸を指して「世界一の園芸大国」と言いました。

では、江戸時代に急進的に「観賞するための植物」が広がっていった背景には何があるのでしょう?順を追って説明していきます。

⑴家康・家忠・家光の存在

徳川の上記将軍は、猛烈な花好きだったことで知られています。この影響は彼らを支える大名や旗本にまで広がりをみせていきました。屋敷では将軍に追従する形で、様々な植物が育てられていました。そして、身分制度があった時代にもかかわらず、この影響は庶民にまでも波及し、江戸時代の園芸熱は急速に高まっていったとされています。

参勤交代による流通量の増加

この時代には参勤交代がはじまりました。それにより東海道、中山道、甲州道中、日光道中、奥州道中の五街道が開通します。これによって、全国の植物が江戸に集結するようになり、より盛んな取引が行われたとされます。

⑶264年間の安定した社会

この江戸時代は、戦国時代などと比較し、割と安定的な社会が供給されるようになりました。そのことにより、歌舞伎をはじめ様々な文化芸術が発展し、庶民も楽しむことが出来る古典園芸植物が発達したとされます。

 

園芸から芸術へ


西洋を発端とした「観葉植物」に対し、江戸時代の古典園芸植物は明確な美の基準を作り出しました。つまり、造園や農業といった実用的な植物利用から脱却し、いち早く単独の芸術として認知されていきました。そして「華道」や「盆栽」と共に、日本独自の園芸文化が生まれていきました。

また、花や葉そのものに繊細な変化を求めること、あるいは、日本の四季を通じて得られる変化を十分に引き出すことを目的とした育成だったために、大きく育つ園芸品種の植物よりも、比較的小さな鉢で育てていくことが世界からみれば特異なポイントでした。

故に、盆栽の三点飾りや万年青(オモト)などの鉢におけるルールは、伝統的な鑑賞法に則って現在まで引き継がれています。

中々普通の園芸店では見かけない古典園芸植物ですが、盆栽と同じように育てることもできますので、是非ともお家で育ててみてください。

 


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