Rock

Red Hot Chili Peppers「I’m with you」

 

Red Hot Chili Peppers
I’m with you
2011

 

今になって気付くこと

アルバムチャートで初の全米一位を獲得した前作「Stadium Arcadium」より五年を経てリリースされたのが本作「I’m with you」です。それまでRHCPのバンドサウンドを支えてきたジョン・フルシアンテに代わり、ジョシュ・クリングホッファーが参加したアルバムでもあります。RUN-D.M.C.やメタリカ、SOAD、オーディオスレイヴなどを手掛けた大御所リック・ルービンがプロデュースしています。

本作がリリースされた年は、私が高校に入学した年であり、私にとっては初めてのRHCPリアルタイムということになります。そのため他の多くのリスナーにとって”オリジナル”なフルシアンテは、私にとっては違ったというわけです。また、RHCPはそのままクリングホッファーを率いて16年に「The Getaway」をリリースしました。そして22年にはフルシアンテ復帰のアルバム「Unlimited Love」「Return of the Dream Canteen」の二作をリリースしました。「Californicationから続く素晴らしいアルバムであろう」という期待を裏切り、メロディがほとんど記憶に残らない不思議な二作でした。演奏そのものは確かに”スウィング”しており面白いのですが、如何せんメロディが良くないと感じてしまう二枚でした。

故に、今になってこそ、このクリングホッファーが参加した「I’m with you」が素晴らしいアルバムであったことが必然的に分かります。

 

円熟と先鋭の狭間で

OPを飾るのはグランジの風を感じさせる「Monarchy of Roses」。フルシアンテの在籍していたRHCPよりも、フリーによるベースのミックスがより強調され、Gはやや鳴りを潜めるといったサウンド形態へと進化していました。

また、アルバム全体を通して感じられるのは、地味でありながらもポップであることや、よりグルーヴを捉えようとする意志のようなもので、それは楽曲の隅々から受け取ることができます。加えてM3「Brendan’s Death Song」M11「Police Station」M13「Meet Me at the Corner」などの優秀なバラードの存在も、本作を囲む異質の要素たるものです。

そして秀逸なのはM5「Annie Wants a Baby」からM10「Happiness Loves Company」までの流れそのもので、とりわけM9「Goodbye Hooray」~「Happiness Loves Company」は、本当に素晴らしい展開となっています。硬質なリズムの中に、クリアなギターを絡ませたRHCP流Jazz & Fusion的展開を浮かび上がらせ、それでいてメロディのフックを失わない絶妙な均衡が感じられます。

またM12「Even You Brutus? 」における所謂”レッチリらしさ”みたいなものも健在で、ブラック・ミュージック的なファンクネスの中に、無理矢理ポップなメロディを突っ込んだ感じの、アンバランスさが魅力になっていることも確かです。続くM13「Meet Me at the Corner」はミックスのバランスはもう少しどうにかならなかったのかな、とも思いますが、円熟した彼らのメロディアスな側面をピックアップした楽曲です。そして特に印象に残らないラスト「Dance, Dance, Dance」で本作は幕を下ろします。

「2022年にリリースされた二作を聴いて、本作『I’m with you』に対し『突出した楽曲がない』と言うことは、中々に難しくなった」と、まるで嫌みのように書いて、この文章を終えたいと思います。

 

Red Hot Chili Peppers「Blood Sugar Sex Magik」


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