Rock

Rage Against the Machine「Rage Against the Machine」

 

Rage Against the Machine
Rage Against the Machine
1992

 

せめてレイジくらい格好良くあってくれ

一部ジャーナリストから「共産主義者によるプロパガンダそのもの」と批判・揶揄されたベトナムの僧侶、ティック・クアン・ドック。背景には、60年代の南ベトナム政権(米の傀儡とされる)による仏教徒への不当な弾圧があったとされます。そんな彼が結跏趺坐を続けながら焼身自殺を行った瞬間の写真が、そのまま使用されることとなったRage Against the Machineのファーストである本作。

リベラルと呼ぶことすら憚られる極左、共産主義的思想をそのまま真っ赤に燃やし、ラップの黒いビートにHR的なヘヴィネスを重ね合わせ、半ば暴力的なサウンドの応酬で本作を作り上げました。やはりどう立ち回っても、本作を語る上では政治性を帯びた言説から逃げることは難しいのですが、恐ろしいのはポリティカルであろうとも、それをエンターテイメントやポップミュージック(※)の土壌で完結させたことです。どのような政治的イデオロギーを持っていようとも、それがエンターテイメントに帰結していなければ、それは単なる危険思想の表現にすぎず、目まぐるしく変化していく現代社会の中では無視されるか、恐らくはすぐに忘却されていくでしょう。(※:ロックを含むポピュラーミュージックという文脈上)

まさかRageを称賛する人々すべてが真っ赤に染まりきっているわけではないと思われますが、一方で彼らの主義主張はこの猛烈なビートに乗せられ、いずれも「分かり」ます。個人的な話で恐縮ですが、僕は彼らと同じ政治思想を持っていませんし、日本における戦後左翼の存在は、メディアによって誇張されてきた側面があるとすら考えます。しかしながら、彼らの音楽はそういったイデオロギーを飛び越えて、聴く者の心を掴みます。掴む、というより刺してくるという表現の方が好ましいかもしれません。この猛然たる怒りのビートを鳴らすRageに対し「政治性はさておき、」とは軽々しく言えず、同じようにSOADに「まぁまぁ」とか言う訳にもいきません。

こちらも個人的な話で恐縮ですが、僕は映画をよく見ます。所謂リベラル監督がこの日本の殆どを占めていますが、貴方が売れないのは政治思想でもなんでもなく、ただその映画がつまらないからです。これは音楽も同じことです。せめてレイジくらい格好良くあってくれ、と心の底から思っているのです。

 

Killing In the Name (of…)

さて、上述した背景の中、まず聴こえてくるのはM1「Bombtrack」の重たいサウンドで、その刹那より本作が強烈であることを理解させられ、トップギアで踏み込まれたアクセルを踏む音が聞こえます。そして今や彼らの代名詞的楽曲となったM2「Killing In the Name」に続きます。92年4月に起こったロサンゼルス暴動を詞の背景にして、4ピースのシンプルな構成で演奏されます。音の厚さとバンド・アンサンブルは猛々しく轟き、骨の髄まで響いてきます。Killing In the Name──意訳すれば「正義の名の下に…」といった表現になりますが、「Fuck you, I won’t do what you tell me!:俺は奴らの言いなりにはならない」とひたすら繰り返される強いリリックからも、その怒りの刃の向かう先が見えてきます。

また、トム・モレロのソロが極めて秀逸なM3「Take the Power Back」を経て、リフを主体にビートを刻む中核M6「Know Your Enemy」、地を引きずる暗澹たるムードを持ったM7「Wake Up」へと至ります。終わりの一音まで満遍なく充満するリズムの緊張感。90年代以降量産された所謂ラップ・メタル、そして00年代シーンに浮上してきたポップ・パンクとはその語り口が明確に異なり、よりシリアスで、まるで「お前はどうする?」と刃物を突き付けてくるようなソリッドさを持っています。

無論音楽的にはLed Zeppelin 、Black Sabbathなどのブルーズ経由のHR、そして、リリース当初から幾度となく言及されていたPUBLIC ENEMYの煽動性を吸収、発露させています。サウンドとしてはHR/HMの範疇となりますが、このポリティカルな要素はどちらかというと90年代のラップ・シーンからの影響が強いようにも思えます。一方で、ティムとブラッドが率いるリズムセクションそのものは暴発寸前の様相を呈し、破壊力を武器に重戦車の如く下から突き上げます。

やがてラストトラックに添えられたなんともシンプルなタイトル、M10「Freedom」では、クリス・コーネルの絶頂的と渡り合えるスクリームを響かせ、本作は幕を下ろします。ストリートにいながらも、一連のキャリアをも煽動し、演奏で魅せて締まった本作。是非音量をあげて。

 


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