Rock

OMOTE TO URA的2020年上半期ベストアルバム

 

新型コロナウイルスによる未曾有の危機で、多くの経済活動がストップし、様々な行動に制限がかかった2020年の上半期。そんな中でも数多のミュージシャンたちは、アルバムを発売し、そして其々が其々のアクションを取ってきたように思う。

そこで本日はOMOTE TO URA的2020年の上半期ベストアルバムを10枚ご紹介したい。

 

 


【選択の条件】

・2020年1月1日から6月6日(記事執筆現在)までに発売されたミニアルバムを含むオリジナルアルバムとする。

【選択の基準】

・トレンド / セールスを考慮せず、知名度も考慮しない。あくまでも繰り返し聴けるようなアルバムを選択。また単曲ではなく、アルバムとしての繋がりが優位なものを優先する。

・以下順不同。

 

 

 


 

 

 


Sad Happy / Circa Waves
release:2020.3.13

「Sad Happy」というタイトルが表現するところのコンセプト・アルバムではあるが、明確に二枚で分けられているわけではない。しかしこのアルバムが表現する「Sad Happy」という感情は、2020年の秩序を失ったカオスに奇妙にも合致する。勿論、これらが未曾有の危機を想定した音作りというわけではなさそうだが、そんな偶然性がたまにあっても楽しい。

一方、サウンドは地に足の着いたロックンロール・サウンドに多様なジャンルが複合的に絡み合い、それが一つのスタイルとなっている。ポップでありながら、どこか”もの哀しさ”を感じさせ、サウンドにはまったく類似性はないがDavid BowieのZiggy Stardustを想像させる。ポップなギターロックからネガティブかつダークな世界観を纏い、エレクトロニカを交差させながらもUKサウンドらしいロックンロールを鳴らしていてくれる。

加えてアルバムのアートワークも見事。是非。

 

 


Gigaton / Pearl Jam
release:2020.3.27

もはや世界的ロックバンドとなったパール・ジャムの7年ぶりの新譜。まったく不思議なアルバムで、冒頭のギターが入り込みドラムスが入り込む瞬間からパール・ジャムだと分かる。世界的な音楽の流れは、安易にロックにエレクトロニカやその他のジャンルを組み込まなければならないという流れになっている。そうでなければ「売れない」からだ。

しかし彼らがやるべきはあくまでも自分たちの音を追求するだけでいい。そしてそのサウンドは、はっきり言って誤魔化しがきかない見事な直球・ロックだった。彼ららしいと言ってしまえばそれまでだが、一聴するだけでは何の特徴もない、オールドでクラシカルなガレージロックなのだけれど、それが格好いい。CDのクレジットを見る限りでは「Programing」の文字が躍るが、彼らがグランジ以降のアメリカン・ハードな乾いた音像を引っ張ってきたことは、その文字では消えなかった。

久しぶりに軸の太いロック・アルバムを聴かせていただいた。個人的には最も来日を期待。

 

 


The Slow Rush / Tame Impala
release:2020.2.14

期待値がこれほど高い状態でも、そして数多くの言説が乱れる中でも、これほどの作品を仕上げてしまうそのクリエイティブな才能にただただ頭が下がる思い。00s以降のロックンロールの行く先をまるで暗示しているかの如く、古くも新しくもあるその様は、見事にキマッていて、ロックがポップと絶妙にしかし美しく交差していくその瞬間を目の当たりにしているかのよう。

本作を通貫するテーマは凡そ”時間の流れ”のようなもので、言わばコンセプト・アルバム的でもあるが、ザラついてて浮遊感のある映像の中にも、鮮明な音像というものが浮かび上がってくる。そして過去-現在-未来を地続きに映し出す、その巧妙さが素晴らしい。もはやサイケデリック・ロックというジャンルに分類すること、そして誰かがカテゴライズしてしまうことさえも忘れてしまうような、そんな愛おしいアルバムだ。

ロックの歴史上、例えば50年代はHendrixというように、その年代を代表するアルバムというものが存在する。そしてこのアルバムはまさに2020sを代表するロック・アルバムとなり得るはずだ。

 

 


Maximum Huavo / INABA/SALAS
release:2020.4.15

状況・状態として以上の新しさを感じる、蒼き傑作で、これまで彼らが表に表現してきたところの音楽性の幅を超えた。そしてそのことによる新鮮さと、その新鮮さをきっちり彼らのルーツであるハードロック~ファンクへ帰結させるその様が、キャリアの長さを証明する。

B’zの稲葉とサラスの強烈な個性とアイデンティティを融合させ、それをこの無国籍感漂う気持ちの良いグルーヴへ落とし込む術が、ただただ聴感上クールだ。よく音楽界隈では「ダンサンブル」という言葉が多用される傾向にあるが、この作品はまさにその言葉を正面から体現してくれるアルバムになっている。

一方でこれから未来に名を残すような、多くのロック・フリークにとっての「名盤」ではないことは確かで、あくまでも「今、聴いていて気持ちがいいかどうか」というところに重きを置いたアルバムであるようにも感じられる。とにもかくにもひたすらに気持ちのいいアルバムで、フィジカル的な強さと柔軟さを兼ね備えている。洋楽至上主義者、邦ロックファン、これはメタルじゃない勢などの様々なカテゴライズ組も、このグルーヴに身を委ねれば、なんとなく明日が良い日であることを実感できるはずだ。

 

 


West of Eden / HMLTD
release:2020.2.5

縦横無尽にそして自由に繰り出されるリズムの様式美に、耽美的なロックンロールの要素を加え、それらを退廃的なUK90s以降の感覚でぶつけてくるアルバムだ。決して生音が多いタイプのロックではないものの、エレクトロニカの要素を上手にポスト・パンク~ニューウェーヴの感覚に取込み、デビューアルバムとは思えぬ完成度の高さを持つ。

またアルバム全体の流れも美しく、既に彼らの「スタイル」というものが確立されていることに驚きを隠せないし、メランコリックな趣のある曲さえも自分たちのカラーに染めてしまことにも驚きをおぼえる。

一方でメロディのキャッチーさ、つまりはシンガロングできるか、というポイントにおいては少し弱めの印象を受ける。しかしデビューアルバムとしては十二分以上の及第点があるように思える。

 

 


baobab / どんぐりず
release:2020.3.22

未だ全容が掴めない感覚、あるいは掴みどころがない感覚。音からは彼らの人間性や影響を受けたようなバンドなどが見えてこない。それがまた一つの魅力となっている。インパラをインディー的にあるいはJ-POP的に解釈したようでありながらも、R&B的でもある。遊んでいるようでいて遊んでおらず、ふざけているようで至って真面目なサウンドメイク。

しかし評論されたり、J-POP史に名を残したりするような世界線には存在していないことも確か。

個人的に全く興味のないタイプのサウンド・ジャンルであるはずだし、良い意味で言葉が飛んでしまっている(聴いていても、何を歌っているのかを意識しない)聴感上クールであるという感覚なのだけれど、不思議な魅力に溢れている。現代PCの素晴らしさを存分に感じ取れるアルバム。

 

 


Anos En Infierno / Xibalba
release:2020.6.3

とにかく不格好だ。というのもメタルがこれまで体現してきたイメージそのままに、音が鳴らされているからだ。泥臭く、重たく、時に冷たい金属音のようなギター。そしてデスボイスを多用している。はっきり言って、メタルが音楽のメインマーケットを占める時代は恐らく二度と来ない。だが、このバンドがハードコアを基調にしつつ、メタリックなリフをドゥームメタル的ヘヴィネスへと昇華させる様は見事。

ラム・オブ・ゴッドからの影響は否定できないものの、あくまでもハードコアに拠ったサウンドメイクで、大味のようでいて繊細なメタルプレイは非常に素晴らしい。

 

 


Healer / Grouplove
release:2020.3.13

グループラブお得意のポップでポジティヴなサウンドメイクはそのままに、みずみずしく描写される空気感とメロディの良さが新鮮。ヴォーカルに深めのリバーブがかかり、曲のポジティヴ具合とその対比によって、古い言葉で謂われるところの「エモさ」のようなものを孕み、なお強調される印象。

インディーズから完全なるメインストリームへと移行し、メロディ先行型の良質なポップバンドへと。演奏やサウンドのクオリティが高い訳ではないし、ロックバンドの出音ではないことも確かだが、それをメロディで補い、ファンク要素さえもエレクトロ・ポップで包んで別の料理にしてしまう手法に脱帽。

ただアルバムタイトル曲の印象が強すぎて、アルバムは少し中だるみしている感もある。恐ろしいほど聴く季節を限定されるアルバムだが、これからの季節にはぴったりでは。

 

 


Father of All Motherfuckers / Green Day
release:2020.2.7

「パンク・レジェンド」といた紹介を至るところで見かける。しかし今作は、そんな彼らが主導してきたポップ・パンクからは少し離れ、ソウルフルで優しさが溢れる印象を受ける。初期パンクの衝動的なもの、あるいは「若者と社会」という構図、そんなものを思い浮かべつつも、やはりあの頃のグリーンデイより遥かに歳をとった。

しかし、パール・ジャムやブラック・キーズが標高の高いところにある枯れた茶色の草だとするならば、彼らはやはりまだまだ青い。その辺の道端に生えている深い緑をした青臭い匂いのする草。確かにAmerican Idiotの頃のようなインパクトや火花散る鮮烈さのようなものは失われたかもしれない。しかし誰もが歳と共に老いていくのは摂理だから、極めて自然の流れとも言える。

サウンドは直球パンクからかけ離れ、ガレージサウンドにほど近いものとなっているのに加え、ビリー・ジョー・アームストロングの歌唱も優しさを増した。しかし渋さと甘美を増したパンクも素晴らしい。弱者の立場からものを語ることの出来るその立ち位置に、ブレない彼らの姿勢を見出せたような気がする。

 

 


California Cursed / DRAIN
release:2020.4.10

直情的なグルーヴ・メタルのような音の厚みがりながらも、パンキッシュな感覚をも持ち合わせたアルバム。今作はDRAINのデビューアルバムでありながらもミニマムにまとめられた作品で、リフが主体となっているものの、メタルにありがちな聴きにくさというものはそこまでない。

全体を通すと冒頭書いたようにグルーヴ・メタルのようではあるものの、中にはプログレ・メタルのような様式美全開の展開、ブラックメタルのような悪魔じみた展開も用意されている。もちろんメタルという括りに当てはまるだろうが、意外にもバラエティに富む内容となっている。しかし、うまく表現することが難しいが、単直でリフ一辺倒な印象もあり、少々面白みに欠ける。

 

 


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ワダアサト
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