Rock

B’z、圧倒的王者の貫禄【Summer Sonic ’19】

 

 

Summer Sonicの決断


B’zが20周年を迎えたSummer Sonic(以下サマソニ)のヘッドライナーを務めるとアナウンスされたのは、まだ時代が令和に突入する前の2019年1月17日のことだった。このことは長年サマソニを支え続けてきたサマソニフリークと、日本中に散らばるロック・ポップスファンを驚愕させた。

なぜならサマソニ側が使用したパワーワード「日本人初のヘッドライナー」という、その言葉通りの要素と、それを務めるのがHR界隈ではなく、邦楽のメインストリームの中で商業的成功を収めたバンド「B’z」であったからだ。

これまでサマソニのヘッドライナーを務めてきたのは、レディオヘッドやブラー、オアシス、グリーンデイ、マドンナなどであり、HR/HM畑からはガンズアンドローゼズ、メタリカなどがその役を務めた。

このことはサマソニを主催するクリエイティブマンにとっても、またチームB’zにとっても大きな決断だったように思え、その判断は当然ながら賛否を呼ぶ結果となった。しかし、これまでB’zというバンドが、確実なるアウェイ戦の中、その風格を見せつけてきたことを考慮し、その実力とサウンドを知っている身としては「B’zしかあり得ない」ということに至るし、その決断をしてくれたサマソニ側とB’z側には最大限のリスペクトをしたい。

 

 

「名実ともに」


「名実ともに」という言葉はよく使われてきた表現である。「名声」と「実績」が釣り合っている様、という意味の言葉ではあるが、つまりは名前も実力も広く一般的に認められるようになった、ということだ。

今、日本のポップ・ロックシーンを大きく見渡すと、この言葉が最も合致するのはB’zである。そしてその証明は、2019年8月16日19時42分からおよそ一時間半かけて行われた作業だ。

軽々しく「圧倒的」と言っているのではなく、先のサマーソニックの彼らのステージを観て、そう確信した。タピオカ的存在のバンドがどんどん活躍の場を広げる中で、「B’z」というジャンルを確立していった兵二人は、まさに「名実ともに」日本を代表するロックバンドであり、世界で闘いぬけるサウンドを構築しているように思える。

HRを基本にしているバンドではあるものの、HR/HMの本流ではなく、なお他のポスト・パンクやニューウェーブといった流れでもないという特殊な立ち位置で、ここまでの数を動かす力を持ったバンドは、世界的に見ても稀有だ。また、彼らの音は70’s~80’sハードロック、メタルを踏襲しながらも、独自の色味や香り、歌謡曲的なフック、その他ロックに用いられても違和感のないものが多く、そこに日本人に広く受け入れられるタイプの抒情性は存在しない。

しかし私は彼らのアクトを観て、そして彼らの音を浴びて、彼らが最も圧倒的な王者であると深くうなずいた。

 

さて、私はそんなB’zのステージをこの目、耳で見聴きすることができた。

断言できる。

────B’zの「今」は過去31年間の中で、最も恰好いい。

 

 

B’z、圧倒的王者の貫禄


普段は閉じられたスペースにまで人が溢れ、超満員となったマリンスタジアム。ステージ上には松本孝弘とYukihide”YT”Takiyamaが使うであろう巨大なアンプが整然と並べられ、スタッフが準備に入る。そんな中でも、マイクチェックやギターチェック、ドラムチェックは他のバンドよりも極端に少なく、B’zに関わるクルーが熟練の場数を踏んできたことが感じられる。

 

16日19時42分ごろ、スクリーンに「B’z」という文字が浮かんだ。そして聴こえてきたのは【RED】のイントロダクションだ。オーディエンスは熱狂の声を挙げ、若い女性から壮年と呼ばれる世代までもが、大合唱を始める。赤色のバルマンのTシャツに白いパンツ、サングラス姿で登場した稲葉浩志は、シャウトを重ね、それに必死になってオーディエンスがついていく様が美しかった。スタジアムは赤く染まり、今日、この場にいることを嬉しく思った。

続く【声明】ではブライアン・ティッシーのドラムが痛快にリズムを刻み、声明後には恒例の「サマーソニックへようこそ!」の声が響く。次曲【WOLF】ではモヒニ・デイのファンキーなグルーヴとホーンセクションに痺れた。

強風が吹き荒れるマリンスタジアムにおいて、彼らと彼らのスタッフが作り上げる音はその強風に流されることなく、出音がとにかく素晴らしかったのは周知の事実だろう。日本屈指の大きな箱から地方都市や離島でのLIVE-GYMを繰り返してきたクルーならではの技術力とそのステージングの妙に、理解はしていたものの驚いた。

そしてサポートメンバーを一新して臨んだアルバムNEW LOVEから【トワ二ワカク】が披露されると、スクリーンには歌詞の一部が表示され、オーディエンスのボルテージは既に最高潮に達していた。永遠に若くいたいという純なねがいを、このマリンステージ上で歌うフロントマンは、その容姿以上に精神性、音楽への向き合い方が若いのだ。

(引用:http://bz-vermillion.com/より)

 

【有頂天】ではオーディエンスが稲葉の声に答え、相互的なリアクションを生んでいく。ラストのサビにはブライアンの重たいバスドラが、スタジアムの地面ごと揺らしていた。続く【ultra soul】では待ってましたと言わんばかりの歓声と、B’zお得意の爆発が起こり、食傷気味のこの曲が持つ圧倒的なパワーにやられた。モヒニ・デイのベースソロはスラップとタッピングを多用し、若干23歳の女性とは思えぬ高度なプレイと、彼女が纏う妖艶な華々しさにショックを受けた。

 

スタジアムに涼しい風が吹き続ける中、松本のシンプルなギターにのって披露されたのは【マジェスティック】だ。スタンドのオーディエンスが自主的にスマートフォンのライトを点灯させ、荘厳な景色を作り上げていった。感動的なその景色を見た稲葉は「蛍みたいですね」と笑い、観客はマジェスティックを優しく、しかし力強く歌う稲葉にくぎ付けとなった。松本のクリーントーンが冴え、いわゆるロック的でない松本の「日本的ギタープレイ」を堪能できる瞬間だった。

「いつか振り返ってみれば 短かったと思うのが青春」という一節に心震え、その瞬間に「この日のことは二度と忘れないんだろうな」と強く感じた。

【裸足の女神】はアコースティックヴァージョンで披露され、まさに「酔いしれる」という表現が最も正しい表現だと思わざるを得なかった。通常ヴァージョンに戻った後は、オーディエンスのシンガロングが起こり、稲葉の声の表現の機微を細かく感じ取ることが出来た。

【イチブトゼンブ】ではB’zの持つ、J-POPのマーケットで闘いぬけるキャッチーさを見せつけ、【Still Alive】ではB’zが持つ陽の色と陰の色を同時に堪能できた。比較的新しいこの曲においては、知らない人々をまでもねじ伏せるだけのメロディと「圧巻」の盛り上がりを見せた。

NEW LOVEからの【デウス】では突き抜けるようなロック・グルーヴ感、ロック・ドライヴ感に浸り、ブライアンの乾いたドラムスが心の最も深いところに向かって直撃していく。メタル畑での経験を積んだ彼のドラムプレイは、世界的プレイヤーとしての矜持に溢れ、脳天を貫くような弾丸と化した。

【兵、走る】では、夏の夜空に花吹雪が舞い上がり、マリンスタジアムを桃色に染めていく。サム・ポマンティのキーボードプレイはさることながら、バックヴォーカルとしての役割に驚かされた。「ゴールはここじゃない まだ終わりじゃない」と歌う稲葉は、それを体現するように衰えを見せず、松本の研ぎ澄まされたプレイにオーディエンスは耳を真摯に傾けるのだった。

【juice】では歪んだTak Toneの隙間を縫うようにしてドラムをしばき倒すブライアンと、曲間のまるで何かの訓練のようなC&Rに、全てのオーディエンスがついていく。YTのソリッドなギタープレイが松本のメインを飾り、YTは身体を大きく揺らしながらB’zというバンドが生み出すグルーヴに一体化していく。

最後の曲となった【さまよえる蒼い弾丸】では、サマソニのコンセプトカラーに沿った青のビームが飛び交い、REDからBLUEへのコントラストの対比が見事。アレンジも旧体制とは大きく異なり、モヒニのチョッパーが松本のギターとぶつかり合いながらB’zサウンドを構築していった。まさに「風の強いはアレルギー そんなのかまっていられない」状態にオーディエンスを持っていってくれた。

 

およそ一時間半続いた容赦ない肉弾戦は、全てのオーディエンスを納得、ねじ伏せるだけの熱量を持って幕を閉じた。

 

また特筆しておきたいのは、今回のライブにおけるセットリストだ。2010年代の作品が多く演奏され、過去の曲の持つパワーを再認識すると共に、B’zというバンドが常に前進し続けていることを決定づける選択だった。B’zの中核を担うサウンドの主は松本孝弘の指によって生み出されるギタープレイと、稲葉浩志の声にあることは明確だが、B’zの中核は安住しつつも、そのスタイルはこの30年間で何度も変わってきたものだ。

かつてのB’zのキャッチコピーにあるように「変わらないという進化」という状態が、実際にあり得ることを実感するのと同時に、かつてのロッキンにて使用していた「THE ONLY SURVIVING HARD ROCK BAND IN JAPAN」という言葉が現実味を帯びていたのも納得だろう。

 

そして最後には白煙の爆発が起き、B’zというバンドが松本孝弘と稲葉浩志によって作り上げられた怪物、あるいは化け物であると再認識すると同時に、圧倒的王者の貫禄を感じないわけにはいかなかった。スクリーンに「B’z」という文字が浮かび上がったその瞬間から、彼らがステージを降りるその刹那まで、スタジアムを掌握してしまう強さと、稲葉と松本が魅せるしなやかでありながら美しいロックのスタイルをもってして「圧倒的王者の貫禄」だったように思う。

誤解を恐れずに言うならば、彼らの人間性はまったくと言っていいほどロックミュージシャンのそれではない。稲葉浩志はスタジアムのステージ上で、サマソニ運営のスタッフに対してもお礼の言葉を述べ、我々オーディエンスに向けてもお礼の言葉を述べた。そして松本と共に深々と頭を下げ「気を付けて帰ってください」と言った。そのいわゆるルーティン的アティチュードに、彼らの精神性や哲学といったものを感じ取れる。

 

そしてステージ上だけで魅せるその圧倒的ロック感、サマソニのヘッドライナーに通常運転で乗り込んでくるイカれた奴ら、それが紛れもないB’zだった。人の心の中に直接的に声を届け、その場を掌握してしまうシンガーが稲葉浩志だった。独自のトーンで彼にしか出せない音を出し、B’zの中核を担うギタリストが松本孝弘だった。

終演後のマリンスタジアムの上空に浮いた月は輝いていて、とても綺麗だった。強烈かつ鮮烈な印象を残したこの日のSummer Sonicを二度と忘れることはない。

 

Set Lists ARE

01 RED
02 声明
03 WOLF
04 トワニワカク
05 有頂天
06 ultra soul
07 マジェスティック
08 裸足の女神
09 イチブトゼンブ
10 Still Alive
11 デウス
12 兵、走る
13 juice
14 さまよえる蒼い弾丸

 


この度はコンテンツをご覧いただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いいたします。

ワダアサト
CONTACT
INSTAGRAM

 

20 Comments

  1. この方の文章は本当に「読ませる」文章だな。分量としてはかなり多い(レポートとしては)のだが、それを気にすることなく読めるし、読みたいと思わせる。そこがいわゆる一般に言う「文の才」なんじゃなかろうか。それにスッと、心に落ちてくる感じもする。何度も読みたい。別にB’zに限らず。フォールズの記事もテンションが違ってて楽しかったです。

    1. 幽々子 様
      コメントありがとうございます。またお褒めの言葉もいただき大変嬉しく思います。私としても、また弊社のスタイルとしても「読ませる」文章をつくり、それを顧客に提供するということを重視しています。

  2. サマソニのヘッドライナーに通常運転で乗り込んでくるイカれた奴ら、いい表現です。

    1. 通りすがりの人 様
      コメントありがとうございます。お褒めの言葉をいただきましてありがとうございます。次回からの記事も是非お読みください。

  3. B’zに対して「時代遅れ」と思っていた私。今は恥ずかしすぎる。もうB’zしかヘッドライナーありえないと思う。昨日ニューラブ買った。で、稲葉さんと松本さんかわいすぎる。

    1. お恥ずかしい話。様
      コメントありがとうございます。彼らは「DINOSAUR」です。まさに、どこかの会社が批判していた「産業ロック」なのです。しかしその産業ロックも長年の「闘い」によって、本当に巨大なロックバンドへと成長するのだと思わされました。

  4. 良い記事でした。ちなみにワダさんはセットリストについては、どう考えてますか?(ワダさんの個人的な意見が聞きたい)

    1. kokcnroll 様
      コメントありがとうございます。私はB’zの盲目的なファンではありませんが、彼らがしたこの決断は正しかったと考えています。アーティストは最新の曲をオーディエンスにぶつけてこそだと考えています。しかし、本音としてはいずれ彼ら自身の本当に好きなセットリストでのLIVE-GYMを開催してほしいとも思っています。

  5. 圧倒的王者と書かれちゃうとなあ。なんかな。本人たちはそう思ってほしいとは思ってないだろうし。他にも王者はたくさんいるし、なんて意見もちらほらネットにはありましたよ。

    1. いや、ちょっと待って。この人が言ってるのは表現としてでしょ?違うの?「他にも王者はいる」ってそれは当たり前ですよ。みんなそれぞれにいますしね。それを差し置いてもサマソニにおいては、ということだったんじゃないんですか?

      1. サマソニに参加しましたけれども 様
        コメントありがとうございます。表現としての言葉で申し上げました。弊社としては生温い表現をするつもりはなく、それに加えてビジネスとしての視点も考慮しなければなりません。これからは注釈で「※これは表現としての言葉です。真に受ねいでください」と書かねばならないのでしょうか。残念でたまりません。

    2. dze dze dze 様
      コメントありがとうございます。私の表現はあくまでも「表現としての言葉」です。全文をお読みいただければその感覚が理解できるかと思います。また、ネットの意見は私及び弊社にとって重要なものではありません。記事内にある表現が、弊社や私の考え方です。

  6. B’zのファンってものすごく広いから、こうやって音楽的側面を書いてくれるレポートがあると嬉しい。おばさんたちはB’zしか聴かないし、かわいいかわいいしか言わないけど、音楽的見地から俯瞰して書かれたこの文は秀逸。
    あくまで彼らはロックバンドでしょ?

    1. ace 様
      コメントありがとうございます。確かにB’zのファンは非常に幅広いですね。しかし「おばさんたちはB’zしか聴かない」というのは、半ば事実であり、偏見でもあるように思います。中には他の音楽に精通した方もいらっしゃいますし、一口にまとめられるようなことではないかと思います。

  7. このかたの秀逸なところは、ちゃんと1975や他のアーティストにリスペクトがあるところ。B’zしか知らない人とはちょっと違う。ちなみに私はB’zは全く知らなかったけど、素晴らしかったです。
    次の日では圧倒的にフォールズ優勝でした。

    1. フォールズ優勝です 様
      コメントありがとうございます。私にとってB’zは最も好きなバンドですが、あくまで私しては「ロックンロールの中に存在するB’z」という考え方です。ですからTHE 1975もフォールズもレッチリも大好きなバンドの一つとなります。

    1. 中学のあいつ 様
      わざわざ「しょーもない記事」に時間を費やしていただき、コメントまでくださるという丁寧さに感服しております。私の文章や弊社のスタイルが「嫌い」という方がいるのはもちろん承知していますが、このように汚い言葉で罵られるのは不快極まりありません。弊社にとってあなたは大切なお客様ではありませんので、二度と閲覧していただかなくて結構です。

  8. 稲葉と松本が凄まじいのは当たり前なんだけども、それよりベースの女性とブライアンティッシーがえぐすぎ。ブライアンは白蛇出身だった気がする。

    1. 風ひいた 様
      コメントありがとうございます。ブライアン・ティッシーは仰るようにホワイトスネイクで叩いていた凄腕プレイヤーです。圧巻の音圧で、圧巻のプレイを魅せてくれました。

Comments are closed.