The Black Keys
Turn Blue
2014
大人の魅力溢れる
OMOTE TO URAにおける2022年S/Sのコンセプトに用いた「Turn Blue」ですが、本作は2014年にアメリカのロックバンドThe Black Keysによりリリースされています。ブルーズの成分を秘めたガレージ・ロックを中心に鳴らす、ダン・オーバック(Vo, G)、パトリック・カーニー(Dr)による異色の二人組です。
彼らは「Brothers」「El Camino」などの良盤をリリースしていますが、8作目となる本作ではじめてUS一位を獲得しました。その実力は折り紙付きながら、日本における知名度と人気度は今一つです。その理由はヴィジュアルが地味であること(ルッキズムだと言われてもそれが事実だから)、そしてサウンドそのものもトレンドの最前線からは大きくかけ離れているからです。
良いように言うなれば「アダルト・大人の魅力」、悪いように言うなれば「ジジクサい」といったところでしょうか。しかし、Turn Blueの魅力は、じんわりと心の中に広がっていく渋みのあるブルーズロックそのものであり、本作はThe Black Keysと僕を引き合わせてくれたアルバムでもあります。
身体はリズムを刻み続ける
まず本作Turn Blueにおける、一つの通底したもの──それは、70年代のプログレッシヴロックの気怠い香りです。そして、そのサウンドデザインの中核を成すのが、憎いまでの極上アメリカン・ブルーズです。しかし、このブルーズは80年代以降重ねて再生産されたものではなく、60-70年代のプリミティブなブラック・ミュージックに源頭を置きます。あの頃のプログレ作品の多くがそうだったように、本作もまるで一つの着地点に向かい制作されたかのような、コンセプト・アルバムのような印象さえ持ちます。
M1「Weight of Love」では冒頭から咽び泣くギルモアばりのギターがピックアップされ、豪快なリフでリスナーを熱狂させることもできるのに、本作Turn Blueにおいては、ゆっくりと燃えあがる炎のような、淡い暖かさと冷たさに包まれます。作品を彩るのは通してメランコリックな憂鬱で、ムーディに進行してゆく流れが特徴的で、美しいと感じます。
また、比重を増したシンセサイザーの細かいギミックが技巧を凝らして仕掛けられ、プロダクション全体の質感は彼らThe Black Keysの全アルバムの中でも突出したアルバムだと考えます。
そして、サイケデリックなジャケットとは裏腹に、綴られる彼らの個人的な懊悩は、Radioheadと肩を並べる程に深く、掴みどころがありません。
I really don’t you know
There could be hell below, below君は本当に知らない
こんな地獄があることを
深い穴に落ちていくが如く並べられた単語の数々ですが、”グルーヴ”の存在によって、悲嘆に暮れていても身体はリズムを刻んでしまう一種の”哀しさ”のようなものを秘めているようにも感じられます。ラストに据えられた「Gotta Get Away」からは、一転ポジティブな空気をも感じ取ることができ、そこがUKロックバンドとの最終的な方向性の違いとも思えます。
本作の背景にはダン・オーバックの私生活、聞くところによると離婚問題などが山積したとのことですが、そういったパーソナルな事柄をドキュメントした本作は、僕にとっての間違いない名盤であり、聴く度にこの深い沼に嵌っていっているような気がします。
最後に、System Of A Downと並んでライブがへっぽこなのは、ここだけの話にしておきます。
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