The Black Keys
Dropout Boogie
2022
時代錯誤のロックに万歳!
一体いつの時代の音楽なのか───。そんなことを思わざるを得ない。行ったこともないのに、アメリカの田舎町の乾いた空気が、びんびんと伝わるアルバムです。思わず「グルーヴする」と、動詞を使いたくなるThe Black Keysの最新作。グラミーまで獲得しておきながら、日本での知名度はイマイチのこのバンドですが、いつも一定以上のアルバムを届けてくれる信頼と実績の老舗!といったところでしょうか。
本作から聞こえてくるのは、ガレージとブルーズを行き来する煙たいサウンドで、冴えないおじさん二人が汗を流しながら、しかし涼しい顔でロックを奏でている景色が浮かびます。言うまでもなく時代錯誤のロックンロールアルバムで、至る所に60年代オマージュと思われるフレーズが頻出し、往年のロックファンを満足させる出来になっています。
フィジカルに効く一発
アメリカの田舎町のバーに漂う葉巻の煙の香りの中に、ブルーズの甘いムードをノせたM1「Wild Child」でスタートする本作。かつての「El Camino」の頃のような血気溢れるリフの一発、という感覚からは一旦距離を置き、サイケデリックに広がるブルーズの感覚を大切にした一枚であるように感じられます。一方で14年リリースの「Turn Blue」のような陰鬱さは姿を消し、ややポップに構築された楽曲が、彼らの長いキャリアを想像させます。
M5「Good Love」にはZZ Topよりビリー・ギボンズが参加。右から鳴るざっくりとした響きのGが、良い塩梅の主張をしています。
加えてアルバム全体を俯瞰して感じられるのは、グルーヴを引っ張る強いセクションが存在しないのに、グルーヴィーであるという決定的な「強み」です。およそダンとパトリック、二人の間に流れる「間」(ま)のようなものが、特殊な、かつサイケデリックな浮遊感を生んでいるように思えます。しかし、やはりこのバンドのブルージーなサウンドを決定づけているのは、やはりパトリック・カーニーのレイドバック気味のドラムスのリズムです。小節をたっぷり利用したゆとりのあるドラムスは、最早無意識的な手癖という感じがしますが、それでもこのタメと抜きの絶妙なバランス感覚は、稀有なものです。
また、ブルース~ガレージを基軸にしたサウンドでありながら、そこにあるのは半ばオタクチックな「緻密さ」で、これがまたThe Black Keysというバンドの特殊性と面白さを浮き彫りにしています。一方で、やはりこのしゃがれた魅力は若い世代にはなかなか伝わらないのも確かで、僕としては少し寂しくも感じるけれど、彼らはそんなことを微塵も考えている風ではないので、気にしないことにします。おじさんの為のロック、是非。