1994年にフランスで公開された映画「LEON」。リュック・ベッソンが手掛け、ジャン・レノとナタリー・ポートマンによって演じられた傑作です。この映画の最後のシーンには、レオンが大切にしていた植木鉢「アグラオネマ」を、マチルダが学校の庭に植え付けるというシーンが描かれます。その刹那Stingの「Shape of My Heart」が流れる、映画史に残る印象的なラストシーンです。
劇中、マチルダは根(ルーツ)のないレオンに「大地に植えれば根を張るわ」と言いますが、”大地に植えずとも根を張らせる”ことを目的とするのが、ミニ盆栽の根づくりなのです。
本日は「根」について、深く解説していきたいと思います。少しニッチな内容になりますが、興味のある方は最後までよろしくお願いいたします。
①盆栽は根に始まり根に終わる
②根の種類
③根の剪定の基本
④根づくりの基本
①盆栽は根に始まり根に終わる
春になれば鮮やかな花を咲かせる様々なミニ盆栽。モミジは芽を出し、桜も咲き、梅も香ります。
しかし、これらのミニ盆栽における美しい点は、あくまでも目に見える範囲の話となり、これらを成立させるには「根っこ」を充実させ、作っていくことが最も重要なポイントとなります。
いくら目に見える範囲が美しくとも、根が張られていなければ、長期的に見て盆栽が長生きすることが極めて難しくなってしまいます。
中でも、根が土から顔を覗かせるその際の部分(下図参照)を、
「立ち上がり」と呼び、盆栽における観賞ポイントの一つとなります。
時に、この根づくりには数年、中には十数年かけて根を作っていくものもあり、通常の枝や葉などの剪定よりも、より専門的な知識が必要となる場合が多いです。なぜならば、根が充実していなければその植物は死んでしまうからです。
また、時には根っこそのものを切らずに充実させ幹として仕立てていくタイプの盆栽も存在します。
(引用:KIDORI)
こういった樹形を「根上がり:ねあがり」と呼び、その独特なフォルムから人気を博しています。
②根の種類
そもそも、盆栽における「根」には幾つかの部位があり、それぞれの役割を持っています。
根っこに種類があんのかい、という話ですが、実は盆栽における根の分別は大切なことになります。
下図のように、人間の目に見えている部分はほんの一部で、実際にはそれを支える根が生えています。
植物にもよりますが、本来であれば「根:樹」のバランスは「1:1」ですが、盆栽ではその根の比率を大きく変えて、日本的な引き算の美学に基づく美しさを見出していきます。
一般には、鉢が小さいことを良しとし(鉢を締める)、剪定により根をコンパクトに形成していきます。
直根(ちょっこん)
:植物における最も太い根を指し、身体(上部)を支える役割をなす。盆栽では切るのが一般的(=鉢に入らないため)。”主根”が植物学的な名称。
側根(そっこん)
:直根の次に太い根。
根毛(こんもう)
:主に土中にある水分と養分を吸うための根。色が白っぽく、盆栽においては切らないのが一般的。
一方で、これらは双子葉類の根の構造であり、単子葉類(ユリ科やイネ科の植物)とは異なる構造を持っています。
また雑木類(モミジ・カエデ・サクラ等)と松柏類(マツ・スギ・ヒノキ等)でも、その根の構造は異なり、樹種に適した剪定と知識が求められます。
③根の剪定の基本
そして、それらを捌くことを剪定と呼び、葉や茎と同じように切り詰めることが必要となります。
根の剪定の目的は大きく分けて三つ。
・より小さな鉢に入るようにする
・樹木の健康を保つ
・古い根を更新し、細根を増やす
為です。
一般に、根の寿命は樹木そのものよりも遥かに短く、新しい根を張り巡らして水分と栄養を吸収していきます。故に、根を剪定しなければ、
・保水力が落ちる
・枯れやすくなる
・樹形が乱れる
などの支障をきたすことがほとんどです。
双子葉類で雑木に分類されるほとんどの樹種は、春の植え替え時に大胆に根を剪定することができますが、切らなすぎたり、あるいは切りすぎたりしても、植物は枯死してしまうこととなり、ここがミニ盆栽の難しさの一つなのではないかと思います。
まず、根の剪定の基本は、
切りすぎず、切らなすぎず
となります。図に表すと以下です。
基本的には、ご自身が入れたいと思う鉢に合うように剪定するのがベターですが、慣れないうちは、あまり鉢を締めすぎないことも重要です。
④根づくりの基本
一方で、雑木・松柏に限らず、根張りを作っていくことも、盆栽を育成していく上で重要な点です。特に、ケヤキなどの樹種は八方根張りが美しいとされますし、モミジなども大地を掴むようにして立ち上がる幹が美の重要な要素の一つとなります。
美しい八方根張り(引用:盆栽徒然草)
そこで行うのが、
目的の場所から発根させる
という技です。これに必要なものは、
・鋭利な刃物
・発根促進剤(ルートン等)
となります。
そもそも植物の根における表面は、表皮により木質化しており、それを土に埋めたとしても自然に発根してくることは稀です。
その為、形成層と呼ばれる根っこの内部組織まで表皮を削り、そこから発根を促すことが必要となります。
形成層
順序としては以下となります。
「形成層を剥き出しにする」
植物の枝や根の表皮を削り、白い部分が見えてきた状態が形成層に到達した状態。緑色の内部組織が見えているうちは、まだ形成層に到達していません。
「発根促進剤を塗布する」
そして形成層を剥き出しにしたら、そこに発根促進剤を塗布し、発根を待つ。
「鉢に植えて発根を待つ」
なお、発根を促す段階では化粧鉢に入れるのではなく、やや深さと広さに余裕がある駄温鉢に入れるのがベターです。
いずれにしても、盆栽は根が重要です。上の部分(つまり葉や枝)を支える役割に加え、先述したように水分や栄養素を吸うために欠かせないものです。光合成を行わない冬季は、根のみで養分を吸収し生きていますから、生育のためには気を遣ってあげる必要があります。是非参考にしてみてください。