Pearl Jam
Riot Act
2002
凪いだ波と静かな怒り
本作「Riot Act」はアメリカのロックバンドPearl Jamによってリリースされた7作目のスタジオ・アルバムです。ご存知「Alive」が収録された「Ten」、「World Wide Suicide」が収録された「Pearl Jam」などの所謂一般的なアルバムと比して、やや地味な立ち位置にあるアルバムではありますが、僕個人としてはかなり好きなアルバムに入ります。
そして本アルバムの背景にある特筆すべき事情は、やはり、彼らのアルバムにおいて、異質にポリティカルであるということでしょうか。本作がリリースされる前年には「9.11」が、加えてアフガン戦争が起こされています。それら現実世界の背景に「Love」という言葉を据えて、本作は製作されています。故に、強烈に当時の政府を糾弾するM12「Bu$Hleaguer」をはじめとして、前作「Binaural」や「Yield」よりも、より輪郭のはっきりした歌詞が随所に見られます。
「Ten」「Vs」の頃の攻撃的でメタリックな要素を持つ楽曲群とは色が変わり、不安や悲哀を孕んだ行き場のない悲嘆を含む暗い、しかし名盤です。
”静”に振り切った静かな名盤
本作の特徴は、上述した「地味」な印象を裏付ける「静」に振り切ったソングライティングです。故に、本作をPearl Jamのワーストに位置付けている方もおられるかもしれません。また、はっきり言って”売れなかった”アルバムでもあります。
しかし、NirvanaやSoundgardenと並び90年代アメリカのロックシーンを支えてきたグランジの旗手としてのサウンドは、鳴りを潜め(元から最もクラシックなHRに近かったとは言え)、より強固な、そしてシンプルなアメリカン・ハードへ帰結しています。一方でバンドとしてのダウナーな感覚は、より骨太感を増し、聴きこむ度にじわりとその魅力が拡がっていくのも特徴的です。
それ故に、メロディを重視したライティングが減り、よりグルーヴが打ち出すダイナミズムに焦点を当てた楽曲が多いように感じます。しかし、その一方でM3「Love Boat Captain」、M6「I Am Mine」などの核となるキラーチューンもご用意いただき、あくまでもアルバムとして聴けるだけのリアリティと、バンドの立ち位置すらも持ち併せています。これは恐るべきことです。
そして往年のTom Waitsを彷彿とさせるエディの声。初期のような激しく咆哮するシャウトこそ聞けませんが、地に足のついた実力派としての声を聴かせてくれます。同年にデビューを果たしたThe Black Keysは間違いなくM13「1/2 Full」のような嗄れたブルーズを目下企てていたとも思え、大物バンドとしての風格をばっちり聞かせてくれたアルバムでもあります。
Pearl Jamのアルバムの中では、とっつきにくいアルバムであることは確かですが、本作に流れる脈々としたアメリカン・ハードのメンタリティを堪能してみてください。