ロックが勢いを失い、世界でも日本でも「ロック」というジャンルがチャートインすることは、珍しい光景になった。ロックというミュージックジャンルの出自を考えると、その音は聡明なものではなく、まさしく「不良文化」の象徴のようなものだった。
今、「売れる」音楽はロックではない。そしてロックから派生したジャンルも、ほとんど売れていない。つまりこの現象は「ロック」以外にも様々なジャンルが増え、そして音楽そのものがサブスクリプション配信などによって手軽になったことで、「わざわざロックを聴く(選ぶ)必要はない」状況が完成したからだ。
だが必ずしもチャートに載る曲が「素晴らしい」と一概に決めつけることはできない。ロックは確かに縮小した。しかし、そんな中でも世界中のロックバンドの中には、未だ古き良きロックを鳴らすバンド、新解釈でもってロックを鳴らそうとするバンド、素晴らしいバンドがたくさんいる。それをご紹介していきたい。
①Pale Waves
Pale Waves(引用:http://diymag.com/より)
ペール・ウェーヴスは2017年2月にシングルを発表しデビューした、超若手ロックバンドだ。このシングル「There’s A Honey」は②でご紹介するTHE 1975のマシュー・ヒーリーとジョージ・ダニエルがプロデュースしたことでも知られている。ヴォーカルのヘザー・バロン・グレイシーとキアラ・ドランが女性のバンドで、イギリス・マンチェスターで結成されたバンドだ。
音はシンセ・ポップを中心にしつつも、いわゆるUKらしいロックサウンドで固められたもので、デビュー1年目の2018年の時点で、海外メディア(BBC、NME等)は彼らを高く評価し、日本のフェス・サマーソニックにも出演を果たしている。
影響を受けているバンドは、2019年のフジロックのヘッドライナーを務めたザ・キュアーや、今なお絶大な人気を誇るザ・スミスなどで、ガールズヴォイスバンドとしてはパラモアなどからも影響を受けていると思われる。
②THE 1975
THE 1975(引用:https://rockinon.com/より)
もはや説明不要かもしれないが、2019年を代表する新人バンドと言えばTHE 1975以外に思いつかない。現在の活躍ぶりは凄まじく、世界各国のライブで大成功を収め、日本においても若手トップの人気と実力を誇る。
イギリス・マンチェスター出身のバンドで①ペール・ウェーヴスと同じレーベルに所属しており、既に発表されたアルバム3作すべてがUKチャート初登場1位を記録している。シンプルな4人組のロックバンドのフロントマンに超ふさわしいヴォーカル、マシュー・ヒーリーを筆頭に、カッティングの心地いい音が襲ってくるバンドで、過激でいわゆる「ロック的」な歌詞もある一方で、ラヴソングやポップな印象をもった楽曲も多い。
影響を受けたバンドはポスト・パンク~ニューウェーヴの代表格であるジョイ・ディヴィジョンから、マリリン・マンソン、プライマル・スクリーム、その他にはオールドロックのローリング・ストーンズやデヴィッド・ボウイなどまで多岐にわたる。
③The Struts
The Struts(引用:https://www.universal-music.co.jp/より)
ペール・ウェーヴス、THE 1975とはタイプの違う、ザ・ストラッツ。「クイーンの再来」(私個人としては懐疑的)と謳われたバンドで、2016年にデビューした。けばけばしいグラムロックの要素とハードロックの要素を、今の時代に落とし込んだ音を鳴らし、ヴォーカル、ルーク・スピラーのアリーナを掌握するその「カリスマ性」が圧倒的。
モトリー・クルー、ローリング・ストーンズのツアーにも帯同し、モトリーのニッキー・シックス、元ガンズのマット・ソーラム、フーファイのデイヴ・グロールなどがお気に入りを公言している。上記二つのバンドと圧倒的な違いは「粘りあるサウンド」で、つまりはハードロックの音。声もギターも粘り、そして歪んでいる。
影響をうけたバンドはクイーンの他に、グラムロックの源流とも言えるデヴィッド・ボウイやT.REXなど。特筆すべきは「彼らを知らない人でも楽しめるライブのエンタメ性」。マジでカッコいいです。
④Greta Van Fleet
Greta Van Fleet(引用:https://www.udiscovermusic.jp/より)
2012年にUS・ミシガンで結成されたハードロックバンドで、フロントマンをヴォーカルのジョシュ・キスカが務める。彼らの音を聴いた誰もが「レッド・ツェッペリン」を思い浮かべたことだろうが、驚くべきことにモチーフが古いのに、音は「今」らしさがたっぷりなのだ。
UKのロックバンドが鳴らす音とは違い、正統派ハードロックを自分たちなりに解釈し、「ロックの未来」とも呼称される。ロックを形作ったブルースの要素を持ち、ツェッペリンが取り込むことの出来なかったニュー・ジェネレーションにがっちりと訴求する。日本ではB’zの稲葉浩志が、サマーソニックのヘッドライナーを務めると決まった際「グレタを呼んでくれ」と運営にかけあったとされる。
影響を受けたバンドはレッド・ツェッペリンの他にエリック・クラプトンやジョー・コッカーなど。来日したら必ず行きたいバンドの一つ。
⑤The Interrupters
The Interrupters(引用:https://www.billboard.com/より)
インタラプターズは結成初期よりランシドなどとツアーを行い、2014年にデビュー・アルバム『THE INTERRUPTERS』を発表。スカ・パンク・ロックなどと形容される音楽性で、日本のニッチなロックファンからも熱い注目を浴び続けている。
タイトなパンキッシュ・グルーヴと、シャープなビートが素晴らしすぎる。私が個人的に衝撃を受けたのは、新しいポップ・アイコンとして既に定着したビリー・アイリッシュのBad Guyのカバーである。
USではウィーザー、グリーン・デイ、フォール・アウト・ボーイと共にツアーを回ることが既に発表されている。スカ・パンクのグルーヴにポジティブな空気をのせ、音を鳴らす要注目バンド。
影響を受けたバンドはもちろんランシドの他にクラッシュなど。
⑥The Lemon Twigs
The Lemon Twigs(引用:http://thesignmagazine.com/より)
レモン・ツイッグスは2016年にデビューアルバムを発表した4人組バンド。US・NY出身のブライアン・ダダリオ、マイケル・ダダリオを中心に活動しているバンドで、①~⑤のバンドのどのタイプにも当てはまらないバンド。
シンプルなポップ・ロックサウンドをその核としているが、70’s~80’sのサウンドにも影響を受けていることは明らかだが、演奏そのものやメロディラインは、今の時代にアップデートされている不思議。ストーンズやビートルズにハマっていた世代の方にはドンピシャなバンドではないだろうか。
影響を受けたと考えられるバンドは多岐にわたるが、ビートルズなストーンズの他にトッド・ラングレンなど。
⑦King Nun
King Nun(引用:https://www.readdork.com/より)
ロンドンの4人組ロックバンド、キング・ヌン。①Pale Wavesや②THE 1975が所属するレーベルDirty Hitから2016年にデビューした。サウンドはグランジとパンクを融合させたような音で、普段ロックを聴かないリスナーがロックに入っていく入り口としては、最強の間口の広さを持っている。
90’sパンク~ガレージロックの要素と00’sのアークティック・モンキーズやストロークスなどが持つスタイリッシュな空気感をはらむバンド。日本ではKing Gnuが人気を博しているが、こちらのKing Nunも素晴らしいバンド。
影響を受けたと考えられるバンドは上記アクモン、ストロークスの他にリバティーンズ、ブラックキーズやパールジャムなど。
⑧The Sherlocks
The Sherlocks(引用:https://note.mu/より)
シャーロックスはUK・シェフィールド出身の2組の兄弟からなるバンドで、日本国内ではそんなに知名度が高くないものの、世界各地のライブではチケットがソールドアウトする状況。
多くの人がイメージするUKロックサウンドやドラムスのストイックなリズムの中に、本流の爽やかなUSサウンドを織り交ぜ、疾走感と爽快感抜群のサウンドを持っている。キングス・オブ・レオンが鳴らす緩やかなのに直情的な雰囲気を表現。今から必ず人気が出るバンド。
影響を受けているのはオアシスやアクモンなどの王道スタジアムサウンドや、カサビアン、ニューウェーヴにある様々なバンド。
⑨Temples
Temples(引用:https://www.nme.com/より)
こちらのテンプルズは既に頭一つ抜きんでている印象があるバンドだが、彼らは2012年にデビューシングルを発表している。彼らのアーティスト写真やCDジャケットを見ていただければ分かるように、明らかにサイケデリック・ロックやプログレッシブ・ロックからの影響を受けている。
オアシスのノエル・ギャラガーはテンプルズのライブを絶賛し、ストーンズのオープニングアクトも務めた。日本のバンド、グリム・スパンキーもファンを公言している。サイケデリックロックとは謳われているものの、ピンク・フロイドとクリムゾンのプログレ要素、エレクトロニカ、ポップなども織り交ぜ、独自のロックを鳴らしている。
影響を受けているのは幅広く、イエスなどのプログレバンド、その他にはビートルズのサイケ期など。
⑩Cigarettes After Sex
Cigarettes After Sex(引用:https://www.theguardian.com/より)
彼らシガレッツ・アフター・セックスが結成されたのは2008年のことだが、音源そのものは2012年に発表された4人組バンド。これまで発表されてきた全てのジャケットがモノクロに包まれており、謎多きバンドとも言われている。
しかしその音はジャケットとは正反対にロマンティックで優しく、質感が柔らかい。ロックバンドというカテゴライズはされているものの、ロックバンドの枠に当てはまらない豊かな音楽性を見せる。またヒーリングミュージック的な要素はギターヴォーカルのグレッグ・ゴンザレスの中性的な声にある。
影響を受けているバンドはニュー・オーダーなどのUK・ポスト・パンクの流れにあるバンドの他に、マイルス・デイヴィスなどのジャズ畑のアーティストも多い。
いかがだったでしょうか。全てのアーティストがステキなロックバンド。是非聴いていただきたい。私個人的にはHR/HMがお好きな方はThe Struts、Greta Van Fleet、The Interruptersを。ポップな曲調がお好きな方はTHE 1975を。それぞれのアーティストに違った良さがある。
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