Rock

OMOTE TO URAが選ぶ名盤②「マグマ」稲葉浩志

 

「OMOTE TO URAが選ぶ名盤」シリーズの第二篇は、「マグマ 稲葉浩志」だ。

第一篇は「Aerosmith ROCKS」こちら

 

さて、このマグマは私にとってのバイブルであり、私が生きていく上でどうしても欠かせない”超名盤”である。

今日はこの「マグマ」について掘り下げて考えていきたい。

 

①「マグマ」とは

②「マグマ」発売の背景と情勢

③「マグマ」の特徴

④いつも身震いしてしまう

 

①「マグマ」とは


マグマはB’zのシンガー・稲葉浩志のファーストソロアルバムである。

発売されたのは1997年で、シングル曲・タイアップ曲がない形態で、日本で唯一ミリオンを記録したアルバムだ。

マグマ 稲葉浩志

発売から20年あまりを経た今もなお、一部の人に「名盤」「傑作」と言われているアルバムである。

B’zというバンドを「陽」とカテゴライズするならば、本作は圧倒的に「陰」とカテゴライズすべき、言葉では言い尽くせないほどの名盤と言える。はっきり申し上げて、今作はまさに「劇薬的アルバム」と言い換えることが出来る”超名盤”だ。

明るくてノリの良いものを求める現代には全く合うことのない、独自の色を持つこのアルバムは、神がかり的な完成度(音楽性云々ではなく)で聴く人の心に迫ってくる。この「マグマ」を聴いて、好印象を受ける人はほとんどいないだろう、と思わせる作品で全体的に重く、暗く陰鬱な、じめじめしたアルバムである

 

 

②「マグマ」発売の背景と情勢


上述したようにこの「マグマ」が発売されたのは1997年のことだ。

1997年以前、B’zとしては1995年のシングル「LOVE PHANTOM」の記録的ヒット、その他の「ねがい」や「love me, I love you」などのヒットを受け、バンドとしては「脂がのっている」状態だった。そしてオリジナルアルバム「SURVIEVE」はマグマと同じく、1997年にリリースされている。

つまり1997年前後はバンドとしてまさに、「強い」状態だったと言える。

しかしこんな状況の中、このアルバム「マグマ」のリリースはまさに「異端」であり、当時のリスナーも大変驚愕したことのように思われる。B’zという巨大なバンドの方向性とはまた違う、このアルバムの感触はまさに「衝撃」で、稲葉浩志という歌い手の「ほんとう」を伺い知ることのできるものだ。

 

 

③「マグマ」の特徴


この章はとても主観的であるが、お許しいただきたい。

今作でまず書いておくべきことは、「内面の噴出」=つまり「マグマ」である。稲葉自身の内面を抉(えぐ)り出したような「えぐみ」がこのアルバムには通底している。音楽的には当時のB’zが出していた音よりも「粗削り感」が目立ち、決して音質も良いとは言い難い。

しかしそれさえこのアルバムの持つ独自の「空気」や「色」のように思え、まさに”生身の人間がもがきながら生み出した”という、その「手触り」が十二分に感じられる作品である。

 

そして特筆すべきはこのアルバムの一曲一曲に綴られる、人間そのものを描く「言葉」である。

このアルバムは、思春期の私を、生きるというその行為そのものから救ってくれた。そしてそれと同時に、「言葉」の持つ強さ、言葉を自分の味方にし、武器にするということを教えてくれた。

そしていつの間にか、このアルバムは私の血となり骨となり、私の精神的な概念に組み込まれていった。このアルバムの中で、ポジティブなことや言葉ばかりが、人を勇気づけたり元気づけたりするのではないと悟った。

 

加えて全体のサウンドプロダクションはB’zというバンドから想像もできないような90年代以降のオルタナティブロックのザラっとした聴感上の感覚や、80年代の華々しいLAメタルやそういった饗宴のような世界への抵抗のような感覚を感じる。それでいて、綺麗で美しいメロディラインが目立ち、それを補完するように楽器群が小さな主張をしている。

確かにそのサウンドの面からも、そしてジャケットや歌詞カードに至るすべてから、このアルバムからは一定の「暗さ」や「ネガティブさ」を窺い知ることができる。一方で、その「暗さ」は冷淡で感情を失ったような暗さ───つまりは漆黒のような「闇」ではない。もっと優しさを伴う「闇」である。こればかりは言葉で表現するのに限界があるが、仄かでやわらかな黒に包まれた「闇」だ。

 

 

④いつも身震いしてしまう


「音楽」という概念の中に存在する文脈を、紐解いていくとそこには言葉を中心とした文学性を読み取ることが出来る。

しかし稲葉も言うように、それは「文学」そのものではない。

あくまでメロディにのせたその言葉の響きや、ワンクッションはさんだうえでの「文学性」が読み取れるということだ。

 

「会いたい、抱きしめたい、好きだ、愛している」が蔓延する表層の音楽シーンもある中で、本当の意味での真逆をいく作品で「音楽というものがどれだけ人々に強いパワーを与えるのか」という点において、その証左になりうる作品だ。

このアルバムを聴くたびに、私はいつも身震いしてしまう。

人間は絶対的に綺麗なわけではなく、恨み、辛さ、同情、怒り、嫉妬など様々な「負」の感情も存在する。稲葉はそれを取り繕ったように、人間の綺麗な一面ばかりを書いてきた人ではない。

そこには常に稲葉の考える「本質」が存在していて、それに真正面から堅実に向き合う詩人が稲葉浩志、その人なのだろう。だからこそ、今作は強大なエネルギーを放ち、そして放ち続ける。

言葉は力。

それゆえに今作から発せられるエネルギーは凄まじい。

 


この度はコンテンツをご覧いただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いいたします。

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5 Comments

  1. いつもブログを読ませていただいています!はじめてコメントします。私も稲葉さんのソロアルバムのマグマは大好きです。私の思春期を支えてくれたアルバムでした☺️
    稲葉さんソロは、分からない人には本当に分からない気持ちだと思いますが、少なくとも私にとってのバイブルです。このブログを読んで、なんて的確な言葉なのだろうと感激しました!これからも楽しみにしています。実店舗オープンしたら必ず行きます!!

    1. まるとこ様
      コメントありがとうございます。
      マグマは私にとってのバイブルでもあります。
      お褒めの言葉ありがとうございます。
      ワクワク・ドキドキするショップを目指していきます。応援よろしくお願い致します。

  2. マグマは僕が中学生、高校生の頃に本当によく聴いた。あれが支えだった。勝新太郎も好きだったこのアルバムは、日本ロック史における発明。
    特に曲順は相当に練りに練られて考えられているのではないか。
    一発目の冷血からくちびるへの流れ、波からSoul Stationまでの陰鬱さとジャジーな感じ。そして最後に少しだけ希望が見える。
    売れに売れまくっていた当時の稲葉が、このアルバムを出したことはとんでもないこと。

    1. 前田利家様
      コメントありがとうございます。
      私もマグマにおける曲順は相当に練られたものだと考えています。
      コンセプトアルバムのようなまとまりがあり、アルバムとしての空気が常に一貫しているように思います。

  3. ほんとに素晴らしい名盤。名盤というくくりで語りたくないほどの名盤。

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