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「JPOP ダサい」「日本 音楽 ダサい」で検索すると、これでもかというほど音楽評論家”風”な人々の、J-POP disともとれる文章が出てきます。しかし日本のポップスやロックなどの音楽は本当にダサいのでしょうか?
「普段どんな音楽聴くんですか?」と問われ、少なくとも三年前の私は決して「中島みゆき」と答えることはしませんでした。なぜなら私は”日本の音楽はダサい病”に罹患していたからです。今日はそんな”日本の音楽はダサい病”患者の為の薬を、OMOTE TO URAなりに処方していけたらいいなと思います。
①ミスチルのジレンマ
②「日本の音楽はダサい病」の正体
③日本はもともと演歌の国
④処方箋
①ミスチルのジレンマ
日本を代表するポップス、あるいはロックバンドにMr.Childrenというアーティストがいます。通称ミスチル。誰もが知るTHE 王道なアーティストです。しかし冒頭申し上げたのと同じように、「普段なに聴くんですか?」への返答は「ミスチル」とも言えません。ましてや「ユーミン」とも「山下達郎」とも言えません。
達郎はそれこそ最近になって”シティポップ”なるムーヴメントによって、なんとか公言できるようになってきたものの、「ミスチル」「コブクロ」「スキマスイッチ」などとは口が裂けても言えませんでした。
理由は一つ、それは「ダサい」からでしょう。というのは彼らが「ダサい」のではなく、それを口にしてしまう「私」がダサいのでした。正確に言うと「ダサい」と思い込んでいました。もっと正確に言うと「ミスチルを聴いている自分を世間に知らせるなんてダサい」と思い込んでいました。「そんなこと言うなよ!失礼だろ!」と憤りを隠せない方もいることは承知しています。しかし、隠れたニュアンスの中に「まぁ、ダサいよね」という一種の暗黙の了解があることは確かでしょう。
ロックで言えば「B’zやX JAPAN、ONE OK ROCKが好き」とはあまり─────どころかとても言えない空気感が確かにありました。少なくとも2010年頃まではあったし、今もありましょう。
しるし(出典:Mr.Children公式サイトより)
ミスチルの「しるし」は、日本を代表する美しい旋律のバラードですが、オシャレ系、或いは音楽系言論人は「しるし、最高だわー!ダーリンというフレーズを編み出した桜井さんは素晴らしい」と言えないのです。こんなに素敵な歌はradioheadのcreepにもoasisのWonderwallにも勝るとも劣らない楽曲だと個人的には思います。にもかかわらず”日本の音楽はダサい病”にかかっている人は「おいおいcreepとWonderwallのほうがどう考えてもいいだろ、失笑失笑失笑に次ぐ失笑、わっはっは」的な雰囲気を醸し出します。
②「日本のポップスはダサい病」の正体
僕が高校生の頃(2011~2014)、日本ではRadwimpsの君と羊と青が大流行していましたが、私はJeff BeckのWIREDを修学旅行(高校二年次)で購入するという暴挙に出ました。まさかのインストゥルメンタルに、クールポコ状態(出典:ロンドンハーツ)となりましたが、僕は「へへ、俺はこんなの聴いてるぜ」という満足感に浸り、「人が知らないものを俺は知っている」という優越感にどっぷり浸かっていました。
WIRED(出典:https://www.amazon.co.jp/より)
これまでレミオロメン(山梨の宝)を聴いてきた、たかが高二の私にJeff Beckの良さが分かるはずもなく、同じくLed Zeppelinの良さが分かるはずもなかったのですが。(もちろん今では愛しています)そして私はいつの間にか”日本の音楽はダサい病”にかかり、その副作用の一つとして「本当に日本の歌が分からない」という症状が出始めました。
「みんな知らないのを知っているオレかっけー」
「オレ、こんなの聴いています、凄いでしょ」
「え、Kings Of Leon知らないの?」
という、今思えば虚しく、哀しき優位性を保持した当時の僕は「聴いている音楽がステイタス」であるかのような勘違いをしていたのだ。つまり、「The Chemical Brothers聴いてるオレって、イケてない?」的なものでした。
しかし本当の音楽好きは洋邦で無粋な分け方はしないし、良いものは良いと認めています。SLAYERも良いけど、BABYMETALも良いよね、というように。同じくSiaも良いけど、宇多田ヒカルも良いよね、というように。
③日本はもともと演歌の国
日本という国は確かにもともと演歌、歌謡曲の国であり、ルーツにブルースやR&B、ロックは組み込まれていない。更に言えばUKのロックとUSのロックでは、まったく味が違います。
しかしだからと言って「日本人が演る音は、ロック”風”、ポップス”風”にしかならない」という、時代錯誤的な考え方はもう古すぎて、化石化しているように思います。だから某バンドの曲を「ただの歌謡曲ユニット」と揶揄し(そもそも歌謡曲がdisにはなっていないが)、某アーティストを「こんなもんメタルじゃないだろ」と揶揄するのも同じく、古い様に思えます。
時代は令和に突入し、新風吹き荒れる「今」です。きっと洋楽至上主義の人々に某バンドのReal Thing Shakesを聴かせたって「これは素晴らしいハードロックだ、ソロが特に秀逸だ、一体何本ギターを重ねているんだ」などと言って絶賛するに違いないです。だってそんな主義者たちの大好きなZeppelinやStonesのプロデューサーAndy Johnsがプロデュースしているわけですから。
そして演歌から歌謡曲、歌謡曲から派生した日本独自のサウンドは、やはり大方の日本人にとって心地の良いサウンドとなっています。Nine Inch Nailsも良いけれど、THE BLUE HEARTSだって最高に良いのです。
④処方箋
”日本の音楽はダサい病”への最高の処方箋は「知る」という歓びを認識することです。「私 / 僕は洋楽しか聴かないんだ」という一つの矜持は、見方を変えれば「まだ日本の曲を全然知らない」ということです。つまり「日本の曲をこれからたくさん知ることが出来る羨ましい人」なのです。
人は「知る」ということに際し、応援しているバンドの新譜、好きなブランドの新作、近所のカフェの新メニューを楽しみにしながら生きています。”日本の音楽はダサい病”患者は、これからユーミンの「青春のリグレット」を知れるし、はっぴいえんどの「風をあつめて」を知れるし、浜田雅功の「チキンライス」を知れます。スキマスイッチの「奏」は超名曲だし、夜中の車の中で聴いた日にゃ、沁みすぎて困るものです