全5回に渡りお届けする「ロックの歴史」。今回は最終章となる「90’s~現代」までをお届けする。
第一篇「50’s~ビートルズ」はこちら。
第二篇「60’s~HRの確立とプログレ」はこちら。
第三篇「70’s~御三家とパンク・ニューウェーブ」はこちら。
第四篇「80’s~メタルとガンズの躍進」はこちら。
※大変長い記事です。
①オルタナティブ・ロックの登場
②レディオヘッドとベック
③ブリット・ポップ・ムーブメント
④ロックジャンルの超細分化
⑤日本のロック
⑦2000年代ロック史
①オルタナティブ・ロックの登場
1988年
80年代の大量消費社会やダンス、ファッションに夢中になった傾向に人々は違和感を覚え始めていた。キラキラした世界は虚構だったのではないか、というように否が応でも社会問題に関心の目を向けざるをえなくなっていた。そんな中、88年にクリス・コーネル率いるサウンド・ガーデンがデビューする。
サウンドガーデン(出典:https://nme-jp.com/より)
彼らはインディーズとしてデビューし、商業的に成功を収めたわけではなかったものの、アンダーグラウンドシーンにおいて大きな注目を集めた。そしてこの出来事は後のオルタナ・グランジ勢にとって重要な意味を持つこととなる。
80年代終盤 UK
80年代の終わりになるとイギリスではマッド・チェスターと呼ばれる一連のダンス系音楽ブームが起きる。レイブカルチャー(ダンスパーティーなど)と、合法ドラッグを使用し、一晩中騒ぐという文化で、それらはストーン・ローゼズ、ニューウェーヴからのニュー・オーダー、ハッピー・マンデーズなどの活躍に繋がる。
オルタナティブ・ロックの登場
80年代の終わりから90年代初頭にかけ、勢いを失っていたエアロスミスなどが息を吹き返す。そんな中、ボン・ジョヴィなどの商業主義的ロックに異を唱えるムーブメントが興る。それがオルタナティブ・ロックの登場と、インディー・ロックの登場である。
インディー・ロックはアンダーグラウンドシーンで展開されるロックで、これまでのHRやメタル、パンクといったものを包含して生まれたものだった。
ソニック・ユースやR.E.Mがその筆頭ではあったが、そんな中、ロック史に残る大きな出来事が起こる。それがニルヴァーナのデビューである。
ニルヴァーナ(出典:CORBIS OUTLINEより)
ニルヴァーナのカート・コバーンはエアロスミスやメタリカ、ボン・ジョヴィといったバンドを産業ロック、或いはダイナソーロックと揶揄し、気だるいスタイルでボロボロのジーンズを履きこなした。この一連の流れはグランジと呼ばれ、ファッションにもまた多大な影響を及ぼした。
売れることやロックスターになることを批判し、排外主義的意識でそれを拒み続けたカートだが、結果としてそのアクションは当時の若者に広く受け入れられ、大人気となった。そしてそのジレンマを抱えながら、カートは自ら命を絶つ。
また同時期にオルタナの流れの中で活躍したバンドにはスマッシング・パンプキンズやパール・ジャムなどが挙げられる。またブラック・キーズも、オルタナのアーティストと言ってもいいだろう。
②レディオヘッドとベック
1992年~
カート・コバーンの死によって、ロック界は大きく萎み、希望が持てなくなっていた。しかしそんな中、陰鬱的で内省的なバンドが現れる。それがレディオヘッドとベックである。
レディオヘッド(出典:https://nme-jp.com/より)
レディオヘッドはトム・ヨークを中心とし、電子音楽や実験的な試みを多く行ったバンドで、その位置づけはアルバムごとに異なる。特筆すべきは3枚目のオリジナルアルバムOK Computerである。彼らはこのアルバムで世界的評価を確立し、90年代を代表するアルバムへと昇華させた。彼らの音楽はベックとは方向性が違い、4枚目のKid Aで商業的自殺とまで揶揄されたものの、商業的にも成功を収めた。
またレディオヘッド、ベックの両バンドは商業的であることよりも芸術志向が強く、現在の日本におけるフェスカルチャーの中において格別な扱いを受けているとも言える。
また、レディオヘッドがデビューした1992年には、ザ・ヴァ―ヴやケミカル・ブラザーズ、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンなどがデビュー。翌年の93年にはアイスランドからビョークがデビューしている。
特にケミカルブラザーズはエレクトロニカやダンスビートのサウンドにロックを融合し、レイブカルチャーからも大きな影響を受け、「ビッグビート」「デジタルロック」といった潮流と音楽性を形成していった。
③ブリット・ポップ・ムーブメント
1994年 US
この年はロック史にとって、大きな転換点を迎えることとなる。まず同年2月にデビューしたのが、グリーン・デイである。パンクを主軸に新しいスタイルの音楽性を見せた彼らは、後にポップ・パンクやミクスチャー・ロックを確立していく。この流れは日本における青春パンク、青春ロックといった流れに引き継がれていく。
1994年 UK
カートが亡くなったのもこの年のことだが、オアシスとブラーがデビューしたことによって、ロック界は再び盛り上がりを見せた。メディアの率先的な露出と、オアシスとブラーの対立構造によって、ポップスライクな彼らの音楽は広く認識されそれらはブリット・ポップと呼ばれる一連のムーブメントとなる。
オアシス(出典:https://renote.jp/より)
特に90年代中盤のオアシスの勢いはすさまじく、ついには現代版のビートルズと呼称されるに至った。その流れの中で、ワンダーウォールやスタンドバイミー、ワットエバーなどのヒット曲を量産。ドント・ルック・バック・イン・アンガーはイギリス国歌とまで称された。
またレディオヘッドがエレクトロニカに傾倒していく中で、同じようにしてプライマル・スクリームも活躍。サウンドガーデン、ニルヴァーナからはじまったUKロックとその一連の流れ、オルタナティブ・ロックはもはやロックの本流と化していた。
④ロックジャンルの超細分化
先はエルヴィス・プレスリーからはじまり、ビートルズ、ストーンズに引き継がれていったロックンロール。それらはやがてザ・フーやレッド・ツェッペリン、ディープ・パープルなどによってハードロックへと移行。そしてその流れから派生したフロイド、イエスなどのプログレ。
ハードロックはエアロスミスやクイーンなどによって引き継がれ、イギリスではパンク、ニューウェーヴ、ポスト・パンクが興る。サウンドガーデン、ニルヴァーナによって確立されたグランジ、オルタナは主流になった。
しかし1990年代後半にかけ、音楽ジャンルひいてはロックジャンルは大きく細分化し、様々な派生カルチャーや音楽性が登場する。
ミクスチャー・ロック
オルタナティブ・ロックと混在するようにして生まれてきたロックスタイルが、ミクスチャー・ロックである。ファンクとの融合を図ることがその主体とされ、フィッシュボーン、ビースティ・ボーイズが大きく活躍。そして最も成功を収めたバンドがレッド・ホット・チリ・ペッパーズである。
レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(出典:https://nme-jp.com/より)
彼らはR&Bやソウルなどの黒人音楽、ハードロック、パンクロックからの影響を強く受け、オルタナティブ・ムーブメントの波に乗ったファンキーなグルーヴで商業的にも成功を収め、90年代~2000年代にかけヒット曲を量産。アメリカを代表するロックバンドへと成長していった。
パワー・ポップ
ポップロックやグラムロックの濃い影響をうけ、オルタナの流れにのってジャンルとして確立されたのがパワー・ポップである。90年代に入ると、このジャンルはウィーザーが牽引するようになり、同じくしてジェリー・フィッシュやポウジーズなどがシーンを賑わした。
ビッグ・バンド
オルタナが本流にある中で、派生してきた音楽ジャンルにビッグ・バンド系がある。この代表格はニルヴァーナを脱退したデイブ・グロールが結成したフー・ファイターズやプログレ・メタルからの影響を大きく受けたミューズなどである。
またUKのレディオヘッドやオアシスの少し後に活躍したのがコールドプレイであり、彼らもまたエレクトロニカに傾倒しつつ、商業的なヒットを勝ち取ってきたバンドだ。
ハードコア・パンク
70年代後半に確立されたパンク・ロックの流れをアメリカで引き継いだバンドには、まずグリーン・デイが挙げられる。そしてそのグリーン・デイの生み出した潮流の中で活躍したのが、ランシドやブリング・ミー・ザ・ホライズンなどである。またペニーワイズもまた、新世代のパンクロックを軸にして活躍。
ラウド・ロック
ハードコアなサウンドを軸にしてヘヴィなグルーヴを出すのが、ラウド・ロックである。このラウド・ロックはスリップノットをはじめとして、リンキンパーク、アリス・イン・チェインズなどが生み出してきたものだ。また、マリリン・マンソンやナイン・インチ・ネイルズ、フォール・アウト・ボーイなども活躍。特にニッケルバックやストーン・テンプル・パイロッツ、メタルを軸にしたモーターヘッドなども含めていいだろう。
ニュー・メタル
90年代のオルタナティブ・ロック、一連のメタル・ムーブメントから派生したニュー・メタルはコーンを中心として盛り上げられた流れである。システム・オブ・ア・ダウンやリンプ・ビズキット、場合によってはリンキンやスリップノットを含める場合もある。
⑤日本のロック
一方、90年代の日本のロックを牽引し2010年代に至るまで、別格の輝きを放つアーティストが活躍し始める。
HM
日本のメタルにとって、その第一人者はラウドネスである。彼らは80年代のメタルから多大な影響を受け、日本国内におけるメタルの底上げを行った。またアンセムやX JAPANも洋邦間の壁を取り払い考えるとしたらメタルに分類されるだろう。初期のラウドネス、エックスは80年代のモトリー・クルーなどからも影響を受け、同じくして聖飢魔Ⅱなどのバンドも活躍。特にX JAPANは名実ともに日本を代表するメタルバンドとなった。
X JAPAN(出典:https://music-is-the-best.com/より)
近年ではアイドルとメタルサウンドを融合したBABYMETALが活躍。ベビメタはブリング・ミー・ザ・ホライズン、ジューダスのロブ・ハルフォード、レッチリ、メタリカ、ガンズなどとの共演を果たした。またマキシマム ザ ホルモンもメタルやニュー・メタルからの流れを汲み、ラウド・ロックを鳴らすバンドと言える。
HR
日本のハードロックバンドの筆頭にはB’zが挙げられる。彼らは2007年にアジアではじめてハリウッドのロックウォークに殿堂入りをすると、松本孝弘のソロアルバムでラリー・カールトンと共にグラミー賞を受賞。ミスタービッグのパット・トーピーやビリー・シーンのレコード、ツアー参加に加え、レッチリのチャド・スミスのレコーディング参加、エアロスミスとの共演、ジョー・ペリーのレコーディング参加を実現させている。
B’z(出典:B’z Official websiteより)
また新世代では初期のONE OK ROCKやUVERworldもハードロック系サウンドを軸に活動を続けているバンドである。またワンオクにおいては初期のハード、ラウドからUK、或いはUSのポップロック、エレクトロニカなどを積極的に取り入れ、日本を代表するバンドとなった。
V系
V系とは日本独自の呼称で、このタイプにはGLAYやラルクアンシエル(本人たちは否定している)、ジャンヌダルク、ディルエングレイなどが挙げられる。デビッド・ボウイなどが確立したグラム・ロックの動きに日本独自のヴィジュアライズされたスタイルを加えることで、日本独自の文化となり得た。
また初期のTM NETWORK、X JAPANなどもこのくくりに入れられることがある。
その他
エルレガーデンなどのエモ・メロコアの影響を受けたバンドをはじめとして、アンダーグランドシーンでサブカルに影響を与えたゆらゆら帝国、またポップスを主軸にしたサザンオールスターズ、Mr.Childrenなどが活躍。詳細は、「さらば平成!平成のロック史を振り返る(日本篇)」に記されている通りとなる。
⑦2000年代ロック史
2000年代に入ると、ロック界は更なるガラパゴス化に拍車がかかり、様々なタイプのニューアーティストが乱立。70’s~80’sにかけ大きく膨らんだHR/HMは影を潜め、よりファストで手軽なロックが生まれてくるようになる。
UK
イギリスではコールドプレイやレディオヘッドなどが継続してその人気を保つ一方で、オアシスのリアム・ギャラガーがオアシスを脱退して結成されたバンド、ビーディ・アイやフォールズなどが活躍。2000年代を代表するバンドにはフランツ・フェルディナンドが挙げられる。また90年代からその人気を維持し、現在も前線で活躍しているのはU2などである。
US
一方アメリカでは2000年代にリンキン・パークがデビュー。ポップロック・メロコア路線の礎を築きあげていく。
リンキン・パーク(出典:http://www.summersonic.com/より)
同時期にはストロークスやホワイト・ストライプスがデビュー。加えてリバティーンズの活躍によってガレージロックのリバイバルが興る。エモーショナル路線の第一人者としてマイ・ケミカル・ロマンスもまたヒットを重ねる。
2003年にはフォール・アウト・ボーイ、キングス・オブ・レオンがデビュー。HRを基調とするシンプルなサウンドで、正統派ロックを担っていく存在となる。またランシドやブリング・ミー・ザ・ホライズンなどのポップパンク勢の活躍も見逃せない重要なポイントである。
2010年代
2010年代のロックはジャンルの如何に関わらず、非常に寂しいものとなっている。しかし、そんな中でもイギリスではTHE 1975が空前の大ヒットを飾り、同じようにしてアメリカでもウォーク・ザ・ムーンなどが活躍。そしてクイーンの再来とも謳われるザ・ストラッツや、レッド・ツェッペリンに大きな影響を受けていると考えられるグレタ・ヴァン・フリートなども、全ての音楽ジャンル内での活躍とはいかないまでも、ロックフリーク間では大きな期待が膨らむバンドとなっている。
この後2020年代にかけて、どんなロックが待ち受けているのか。そしてロックの素晴らしさは、過去のものが不滅的に残り続ける点にある。過去のものを掘り起こせば、多くの音楽における哲学や時代を感じることができるだろう。ロックは確かに時代を映してきた。多くの人々が熱狂し、社会的に力を持つカルチャーとなった。今後もロックというものをしっかり見続け、聴き続けていきたい。
※このシリーズに書かれていないアーティストも多いと思いますが、ご容赦ください。また、マイナーでも素晴らしきロックを知っておられる方がおられましたら、是非コメント欄で大いに語らってくださいませ。
all text : ワダアサト
この度はブログをご覧いただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いいたします。
ワダアサト
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レディオヘッドの詳細が書いてあって嬉しかった。UKを聴く人は、メタルやハードコア、HRと対立傾向にあるけど、俺は両方とも好きだで!