AC/DCが帰ってきた。
オーストラリアの雷神、AC/DCが帰ってきた。本当に嬉しい。今日はそんなAC/DCについて、少し触れていきたい。
壊滅、死に体のAC/DC
Rock or Bust(2014)
AC/DCは前作「Rock or Bust」(2014)をリリースしてから、ほとんど壊滅状態にあったようなものだ。同2014年には、ドラマーのフィル・ラッドが薬物や殺人を企てた罪で逮捕。そしてヴォーカルのブライアン・ジョンソンは聴力障害を患い、ツアーを降板。代役にはガンズからアクセル・ローズが据えられた。更にはベーシストのクリフ・ウィリアムズも相次ぐメンバー変更に活動意欲をなくし引退。
そして、長らくアンガスと並びAC/DCを率いてきたリズムの要、マルコム・ヤングが認知症の末、亡くなった。2017年のことだった。AC/DCは数ある世界のロックバンドの中でも、リフを主体とし、そしてリフに終わるバンドであったわけであるから、マルコムの逝去は間違いなく彼らにとって「危機そのもの」であった。
つまり全世界を熱狂の渦に巻き込んだロックアイコン、AC/DCは絶対に再起不能、もはや「死に体」の状態だった。
Back in Black(1980)
だが思えば80年にリリースされたBack in Blackも、ボン・スコットを亡くした直後に、ブライアン・ジョンソンを据えて世界中のロック・フリークを興奮させた。だから、きっといつかはまた復活してくれるだろうと、そう願っていたけれど、それが実現するとは夢にも思わなかった。
「変わらなさ」の境地にいるAC/DC
POWER UP(2020)
そして、帰ってきたAC/DCのニューアルバムは、あまりにも最高だった。痺れるほど最高だった。骨格だけで作り上げるハードでヘヴィなロックンロールは、余計な装飾を排除しながら、確固たるAC/DCのサウンドをパッケージングしたようだ。アンガスのリフはマルコムの遺したライティングやアイディアをベースに、かつてと変わらぬ強靭さと自由さを象徴し、リズムセクションとの整合性、というか「ノリ」具合がたまらない。これ即ち「グルーヴ」と変換できるサウンド。
その音を聴いた刹那「ああ、AC/DCの変わらぬサウンドだ」ということを思う。この変わらなさ、不変、あるいは普遍は凄まじいとしか言いようがない。
通常、この世の中の「変わらないもの」は淘汰され、消えていく。日本の古典文学で謂うところの「諸行無常の響きあり」といった感じだろう。あるいはヘラクレイトスが説いた「万物流転」にも通ずるものかもしれない。しかし、このAC/DCというバンドにおいては、その傾向が当てはまらない。むしろ「変わらないこと」に恒久の価値が宿るが如く、どこを切り取っても圧倒的強度を誇るAC/DCのサウンドそのものが聴こえてくる。
だが、それは裏を返せば「新しくない」ということでもある。語弊を恐れずに言えば「すべて同じ」なのだ。音楽のメインストリームを吸収する態度を微塵も感じさせず、ある意味で開き直っている感じ。でも、AC/DCだけはそれが許されている。どこかのバンドで「変わらないという進化」というキャッチコピーがあったけれど、まさにそれを身を以て体現する唯一無二のロックアイコンが、このAC/DCなのだろう。
そしてもっと凄まじいのは、この強烈な「現役感」だ。このコロナ禍を除けば、日本にもいわゆる「懐メロ」バンドがたくさん来日する。だが、それらはどうしても過去の栄光を引きずり、”往年の”または”懐かしの”という枕詞を必要とする。
しかし、そんな中AC/DCが聴かせるこの「現役感」は、ストーンズに重なり、本当の意味での第一線のパワーを感じる。ブライアンの皺も明らかに増えたし、アンガスに至っては髪の毛も減ってきた。要するに年齢的にも見た目的にも「おじさん」を通り越した「おじいちゃん」なのだ。でも、それでも、音を鳴らすAC/DCの面々はやっぱり格好いい。
図らずして、映画「スクール・オブ・ロック」でデューイ・フィンが放つ台詞『俺が消えてもロックしろ』をアンガスに重ねて、思い出した。
いずれも、良いとか悪いとか、どこそこのリフが云々とか、めまいがするようなセールスとか、そういったものを超越した境地にいるバンドの最新作、是非音量をあげて聴いてみてほしい。
1 : Realize
2 : Rejection
3 : Shot in the Dark
4 : Through The Mists Of Time
5 : Kick you When You’re Down
6 : Witch’s Spell
7 : Demon Fire
8 : Wild Reputation
9 : No Man’s Land
10: Systems Down
11: Money Shot
12: Code Red
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