「ほんなこん書いちょし」
「ブログに書くのなんやめろし」
「書くの大変ずら?やめろし」
などと言う言葉が山梨県民から聞こえてきそうだが、進めさせていただきたい。
山梨県には甲州弁という方言が存在する。”月曜から夜ふかし”によって拡散された悪しきイメージが、全国に浸透して、いい笑いものになっているのは周知の事実だろう。
きっと山梨県民はTVの画面にかじりつきながら、こう言っておられることだろう。
「こんなこん言ったこんねーら」
と。
その言葉が、もう既に甲州弁の泥沼から抜け出せない証拠であるにもかかわらず。
しかし、実際の甲州弁はどのように使用されているのだろう?OMOTE TO URAが少しだけ考えてみた。
①「おまん」
②「し」
③「ら」
④「だけ、だか」
⑤「ちょ」
⑥「ずら」
①「おまん」
まず言っておきたいことは、若者と高齢者によって大きな差があるということだ。
TVで流れがちな「あなた」を「おまん」と言う言い方は、若者はほとんど使用しない。
しかしナスとキュウリを育てている田舎のおばあちゃんは、確かに
「おまん、それ持ってけし」
などと言う。そしてその場合、大抵一袋では飽き足らず、ナスとキュウリに加え、桃、ホウレンソウ、ジャガイモなどあらゆる種類の野菜が付け足される。
そして
「ちっと寄ってけし」
と言い、寄っていく側も言葉に甘え、
「じゃあちっと寄らしてもらうだ」
などと言い、こたつの中に入り込むのだ。
寄っていく側は、寄らせてもらう代わりに家で漬けたタクアンを
「これ漬けたから食えし」
と言うのである。
②「し」
①に出てきたように、県民は「し」を多用する傾向がある。
「それ持ってけし」「ちっと寄ってけし」
というのは、いつからはじまったのか知りえないが、長い間日常に潜んできたものであるから、普通のことでしかない。
この謎の「し」は、もはや息をするのと同じように使われている。
③「ら」
「あれ食べるら?」
もう意味が分からない。これは比較的若者も使うのではないだろうか?
私も東京で暮らしているときは、この言葉が何度か出てきそうになったが、幾度となく我慢した経験がある。
東京では意味が通用しないうえに、
「今日残るら?」
「明日やるら?」
などと言っていては、「こいつは留学してきたばかりの外国の方」などと思われてしまう。
通常「ら」は仮定するときに使用するもので、例えば「その話を彼女にした”ら”(どう)?」のように使用する。
しかし甲州弁に呪われた人々は、
「だからそう言ったら」
などと言う。この本意は、「だからそう言ったよね?え?何回もそう言ったよね、私」となる。
更にもっと呪われた人々は
「だからそう言ったらにぃ」
などと言うこともある。この場合、大抵の県民が顔を梅干しのようにすぼめ、言っていると想像してほしい。まるで苦虫をかみつぶしたような顔である。
この本意は「だからそう言ったよね?何度もそう言ったよね?はぁあ、あきれる、まじで。考えられない。」となる。
④「だけ、だか」
「まだやってるだけ?」「まだやっているだか?」
この「だけ、だか」は、これっぽっち=「〇〇だけ」という意味ではない。このイントネーションは「竹」「負け」ではなく、「吐け」「ヤケ」というイントネーションだ。
この場合「だけ、だか」には、半ば呆れのような感情が含まれている。
つまり、
「まだやってるだけ?」
=
「まだそんなことしてるの?もういい加減終わりなさいよ。若いっていいわねぇ」
ということである。
⑤「ちょ」
「ほんなこん言っちょし」
「余計なこんしちょし」
などと山梨県民は口々に言う。
恐らくこのブログを読んでおられる、純な山梨県のおばさま方も
「こんなこん書いちょし」
などと思っておられることだろう。
この方言がきついのは、「ちょ」+「し」のダブルパンチであるということだ。「ちょ」に「し」を付け足せば、もう一巻の終わり。
例えば飲み会で、隣の女の子といい感じになっている。
酔いもまわってきた。もしかしたら、あるんじゃないの?
そんな時に女の子が
「もう終電だわ。帰らないと」
などと言った際、東京の方ならばスマートに
「まだ帰るなよ」「もう少し一緒にいたい」「今日は帰さない」
などと言って、その女性の手を引くことが出来る。
キザなセリフも何のことはない。
しかし甲州弁に呪われた人々は
「もう終電だわ。帰らないと」
に対する返答の用意ができていないから、きっとこう言うだろう。
「まだ帰っちょし」
続けて、
「まだいろし。大丈夫ら」
⑥「ずら」
とうとうきてしまった。「ずら」。
この日本において、最もダサいと言われる甲州弁の所以がこの「ずら」である。
「今日は泊ってくずら?」
「当たり前ずら」
「一杯やってくずら?」
私が思うに、この「ずら」は「まぁまぁ、しょーがないよね」のようなニュアンスがあるように思う。
「一杯やってくずら?」
は、
「あんたたちもしぃーがない男たちだね、まったく」
のような意味が「ずら」には内包されている。
しかしこの「ずら」がなくても、意味が通じる点がイタイ。
「今日は泊ってくずら?」
「今日は泊ってく?」
「当たり前ずら」
「当たり前」
というように。
はぁ…
でも…!
もしかしたら素敵なのかもしれない。
この長い意味やニュアンスを短い二文字に詰め込むという精神性。これはまるで俳句のようなものである。
しかし、山梨県民は注意すべきだ。
東京のレディースに「まだいるよな?」と言う代わりに
「まだいるずら?」
と聞いた時点で、その飲み会は破綻まっしぐらである。
どうか山梨県民の皆様、お気をつけください。
そしてこのダサい甲州弁を、愛していこう。
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