Arctic Monkeys
AM
2013
2005年、Arctic Monkeysのデモがインターネット上に公開され、息つく間もなくいきなりUK初登場一位を獲得したバンド。それがArctic Monkeysであり、ガレージパンクの恍惚をドキュメントした彼らの1st「Whatever People Say I Am, That’s What I’m not」はUK一位に輝きました。以降、全てのアルバムがUK一位を記録しています。
そしてそんなArctic Monkeysが大きく方向を転換させたのが3rd「Humbug」でした。そしてそういった流れの中で、インディーズと90年代以降のHRを踏襲し、或いはクロスオーヴァーさせ、恐るべき完成度で提示したのが5作目となる本作「AM」でした。
アルバム全体を通して感じるのは波打つグルーヴと、過去と未来を繋ぐ明確な態度、或いは一つの「在り方」でした。グルーヴを強調させるダークでメロディアスなヴォーカリゼーションは無論のこと、既にM1「Do I Wanna Know?」で、本作が素晴らしいことがありありと分かります。
じんわりと、緩やかに体温をあげていき、サビに至り全ての音楽の粒子が綺麗に重なり合い濃密なキスを想像させるが如く揺れ動くサウンド。紛うことなき傑作です。
汗の匂いがするエロティシズム
そして、最も本作から感じるのは「ROCK」という文脈で語られるだけの強度を保ちつつ、新しい視座を見据えている、という点です。つまり、90年代に”オルタナティヴ”という言葉が出てきたのを最後に、ROCKなるものに復権の兆しはないものとばかり思っていた人が多い中、彼らはテン年代ROCKの完成形を生み落としてしまった、ということです。語弊を生まないように言い換えると、つまりは旧年代のロックと新年代のロック、それぞれのリスナーを満足させられるだけの力量を持っているのです。この腰の低いロックは、古くはKyuss、そしてQOTSA、TCVより降臨したジョシュ・オムの力技も大きく関連しているとみえます。
緩やかに進むブラック・ミュージックのフィーリングの中に、Zeppelinを踏襲したかのようなリフが入り込むハイライトM4「Arabella」を筆頭に、Black Sabbathや70年代HRを想像させるスケール感の大きな楽曲を抑えています。加えて、現代的なコーラスワークを取り入れ、R&Bまでをも「もの」にする、このテン年代感も持ち併せています。
本作におけるフロントマン、アレックス・ターナーの詞は、極めて詩的な表現が頻出する一方で、そこから漂ってくるのは汗の匂いに香水の混じったような、生々しいセクシュアルな香りです。本作を聴くには昼間なんて考えられないわけで、僕個人としては本当にエロいアルバムをありがとう、という気にすらなるのです。もっと下品に表現すると、リフすらエロいのです。
また、初期のアルバムが様々な要素を詰め込んでいたのに対し、いよいよ5thで引きの美学を味方につけ、より楽曲そのものとサウンドの中核を魅せる何らかのメソッドを手中に収めたのも、本作が傑作中の傑作である一つの遠因でしょう。
個人的なことを書くと2022年の今、UKからは期待の大きなバンドが沢山出てきて、日本国内のフェスのヘッドライナークラスまでのし上がってきました。しかし、僕にとってのロックはそれではないし、そのことを「古い」と言われようとも、僕は一つも困らないのです。
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