Bonsai & Plants

植物のクレイジーな生存戦略

いよいよ本格的に気温が上昇してきまして、山々が蒼さを取り戻してきました。まるで禿山のような冬の姿から、鮮やかな緑に変わっていくのは、いつ見ても美しいものです。

さて、そんな本日は、僕が様々な植物をこの目で見てきた中で、あるいは山々を歩く中で出会った不思議な植物の話をしていきたいと思います。

 

①”バカ”が付く

②タンポポの綿毛

③ギンリョウソウ

④有胚乳種子の不思議

⑤広さに合わせて葉を変える

⑥サボテンは眠る

 

①”バカ”が付く


野山に限らず、普通に道端を歩いていて「バカが付く」という経験をしたことがある方は多いでしょう。地域によっては「ひっつき虫」「くっつき虫」などと呼ばれることもあり、洋服にくっついてしまうややこしい植物です。

一般的にはこの植物は「オナモミ」として知られ、僕も小学校の頃の通学路で服にくっつけて遊んだ記憶があります。一説によると、これがマジックテープ開発のヒントにもなったとされています。

オナモミ(引用:東洋経済ONLINE

その他にも「バカ」と呼ばれる植物には、センダングサ類、ミズヒキ類など、様々な種類があり、多くの方が一度は服につけてしまった経験があると思います。

センダングサ(引用:matsue-hana.com

特にニットなどの服に付いてしまった際は、取り除くのが本当に大変で、半ば心が折れがちになります。

無論これら「バカ」が付くのは、想像の通り、種をつけて他種(ニンゲンや野生動物)に運んでもらう為の生存戦略です。このことを専門用語では「動物散布」と呼びますが、身近に見られる生存戦略の一つです。

 

②タンポポの綿毛


同じように「タンポポ」の綿毛も自らの種子を遠くまで運ぶための構造をしており、小さい頃に綿毛をふう~っと飛ばした経験のある方もいるのではないでしょうか。

タンポポ(OMOTE TO URA)

綿毛(引用:NATURE & SCIENCE

この戦略は①バカの「動物散布」に対し「風散布」と呼ばれ、自然界に存在する様々なものを利用して分布を広げていきます。

秋になり、赤い実が付くカイドウやリンゴ、あるいはナナカマドのような植物も、鳥に捕食させ、フンとして排出されることで分布を広げていきます。

ナナカマド(OMOTE TO URA)

 

③ギンリョウソウ


また、以前「植物が必要とする4つのもの」で、植物は光合成を行い有機物に転換していると書きましたが、中には光合成を行うことを辞めてしまった植物もいます。それが「ギンリョウソウ」です。

ギンリョウソウ(OMOTE TO URA)

この「ギンリョウソウ」は生物進化の過程で、光合成をストップし、生存に必要な有機物をキノコなどの菌類から得ることで生きられるようになりました。このような特徴を持つ植物を「腐生植物」と呼び、葉緑体(葉っぱを緑にする役割)を持つ必要がありません。故に真っ白な見た目となり、別名を「ユウレイタケ」としています。

植物学的には、こういった特徴を持つ植物を「菌従属栄養植物」と呼び、ゴキブリなどがギンリョウソウを食べ、フンとして排出することで分布を広げています。

 

④有胚乳種子の不思議


一方で、誰もが知っている植物に「どんぐり」があります。このどんぐりはコナラやミズナラ、あるいはカシ、クヌギなどのブナ科の果実の総称ですが、これは実は種(※)ではなく堅果(けんか)と呼ばれる果実となります。(※種も兼ねる)

また、アボカドやイチョウ、柿なども合わせて、これらを「有胚乳種子」(別名:元気玉)と呼びます。

 

胚乳(OMOTE TO URA)

この「胚乳」には、生きて行くための様々な栄養素を貯えており、胚乳が付いている間は根や葉を切っても、芽と根が出てきます。モミジ、ケヤキなどの樹は子葉(しよう)で光合成を行うことにより、養分を生み出しています。

この性質を利用し、イチョウやミズナラなどは早い段階から幹を太らせることができますので、ミニ盆栽を仕立てる上でも欠かせない植物となります。

 

⑤広さに合わせて葉を変える


そして、ミニ盆栽を仕立てる上で絶対的に考慮しなければならないのが「葉の大きさ」です。一般に、ミニ盆栽における葉の大きさは、小さければ小さいほど良いとされており(巨木感を出すため)、人為的に矮小化させることを行っていきます。

この方法は、簡潔に言いますと「小さな鉢に入れる」ということです。では、一体なぜ小さな鉢に入れることで、葉を小さくすることができるのでしょう。

その答えは「蒸散」にあります。

蒸散運動を利用した葉の矮小化

蒸散とは、植物体内の水が水蒸気となって植物の表面から大気中に放出される現象を指します。この蒸散は「気孔」を通じて行われ、孔辺細胞の開閉運動により調節されていることが分かっています。

つまり、このことから鑑みれば、鉢が小さい(=水も少ない)のに、葉を大きくしてしまったら、蒸散量だけが増え、元の水分量が不足することとなります。ですから、鉢を小さく締めてあげれば、植物は自然に葉を小さくしていく能力を持っています。

要は、植物曰く「こんなに葉を大きくしても、水が足りないから死んでしまうわ~」ということです。

また、時に葉そのものの一部をカットし、蒸散量を減らすことも行い、根からの吸い上げ量を減らすことも行います。(これは挿し木時に行うことが多い。後にコンテンツで書きます)

 

⑥サボテンは眠る


一方で、海外に目を向けてみますと、日本とはまた違った気象条件の基で生きる植物がいます。代表的なのは虫や動物を捕食する「食虫植物」ですが、我々が頻繁に目にする「サボテン」もまた風変わりな戦略をとっています。

(引用:

それが「休眠」で、あ、そろそろ乾季が来るな?と思った途端に水をも受け入れず、長い眠りにつくのです。日本に自生する植物の多く(モミジやケヤキなど)も休眠期に入りますが、サボテンのように水を必要としないのは特異です。

また、「植物に必要な4つのもの」でも書きましたように、植物は基本的に日光と水を利用して光合成を行います。ですが、水を求めないこの休眠期においては、光合成を行えないため、葉緑体を含む「葉」そのものを落として眠ります。

 

植物というのは、我々が考えるより遥かに頭が良く、生きて行くための戦略を絶えず行っているのです。珍奇植物や食虫植物は広く知られた戦略的植物ですが、その辺に生えている植物も極めて高度で頭の良い生存戦略を持っているのです。この性質を学んでいけば、より明瞭な培養が行うことが出来ますので、是非、参考にしてみてください。


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